
セクハラ、パワハラ、マタハラ……。昨今、職場でのさまざまなハラスメントがニュースやSNSで取り上げられることが多くなったが、大学などの学術機関で発生するアカデミックハラスメント(通称“アカハラ”)をご存知だろうか。
セクハラ・パワハラに比べて話題にならない“アカハラ”
4月9日、アカデミックな世界のハラスメントに関する訴えがXに投稿され、244万超のインプレッションを記録する大反響を集めた。
研究者である投稿主は、学術雑誌に掲載する論文を査読に出していたところ、10ヶ月ほど待たされた挙げ句「stupid」(バカ)と書かれて、リジェクト(不採用)されたのだという。
学術雑誌への掲載は研究者にとって“実績”であり、採否は非常に大きな意味を持つ。あまりピンとこないかもしれないが、仕事における重要書類を長期間放置され、やっと返ってきたと思えば罵倒コメントが添えられていたと考えれば、その異常性が想像できるだろう。
そしてこの投稿には、「ハラスメントではないか」として、同じ研究者から同情や問題視する声が多数寄せられた。
大学や研究機関などの学術的機関で行われるハラスメントは「アカデミックハラスメント」と呼ばれ、一般的に「アカハラ」と略される。これは、研究者にとって由々しき問題だが、研究者・大学院生という母数の少なさ、高学歴へのやっかみなどから、セクハラ・パワハラに比べて話題になることは少ない印象だ。
しかし、先述の投稿が示すように、研究者や院生のなかには、壮絶なアカハラを受けている者もいるようだ。
一例として「私は“全く論文指導しない”というアカハラを受けました」との体験談を語るのは、都内の大学院で博士課程を修了した30代男性のAさんだ。
「教員に連絡しても『忙しい』『時間が取れない』などと相手にされず、論文を出しても放置でコメントを返してくれませんでした。
ほかのゼミでは、自身の業務を院生に丸投げする教員もいましたね。事務所の引っ越しに院生を動員したり、資料の翻訳を“勉強”などと称して無報酬で行なわせていましたが、院生からすれば『断ると指導してもらえなくなる』との恐怖から、従わざるをえません。
結局、“研究室に所属して教授に指導を仰ぐ”というシステムがなくならない限り、アカハラも構造的に残り続けるんだと思います」(Aさん)
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「1万字以上を手書き」「研究会は若手の成果を吸い上げる場所」
ゼミ(研究室)という形で教授に師事する院生・研究者にとって、指導の放置は死活問題だ。だが、Aさんの周りには、逆に“とんでもない指導”を受けるアカハラも存在していたという。
「他の大学院には、高圧的な指導に悩む友人もいましたね。論文について重箱の隅を突くような指導を受け、イチからしっかり説明したら論文を投げつけられたとか。
ほかにも、『議論が雑』『センスが感じられない』といったコメントばかりで、具体的な改善点を一切示してもらえなかった友人もいました。そのくせ、他の教員には『アイツは研究に取り組んでいない』など、陰口を叩いていたそうです。
別の友人には、指導教授から『君はもっと書き方を学んだほうがいい』と言われ、『実際に手を動かしたほうが脳に定着する』と1万字以上を手書きで提出させられた人もいました。
友人も『さすがにここまでの無意味さは、理由をつけて嫌がらせしたいだけだと確信した』と憤っていました」(Aさん)
さらに驚くべきことに、アカデミックの世界では、指導するはずの教授が“研究実績を横取りする”という、泥棒のような行為まで横行しているという。関東のある大学で助教を務める30代男性・Bさんが語ってくれた。
「かつては、院生が書いた論文を指導教授の名義で公表したという例も聞きましたが、直接見たのは“共同執筆者”として指導教授の名前を追加させるやり口です。これはタダ乗り同然ですが、断ると指導放棄のほか論文投稿の推薦状も出ないため、応じざるをえません。
これは教員と学生に限らず、大御所と若手という研究者同士でも起こっています。業界の大御所が、相談に来た院生や若手研究者が独自に見つけた資料などを、無断で使用する例があるのです。大御所にとって、研究会は若手の成果を吸い上げる場所と化しています。
学会や研究会ではほかにも、若手の研究者が発表するときだけ、妙に質問したがるベテラン研究者がいます。しかも、そういう人に限って、高圧的な言葉遣いや激しい言葉で若手に質問し、ときには罵倒に近い言葉も遣っています」(Bさん)