
9月4日に歌手の橋幸夫が亡くなってから1カ月が経過したが、彼の死に際し、不幸な事件を思い出してしまった。橋がレコード会社リバスター音産の副社長をしていた時の話だ。
1986年3月30日、デビュー予定だったアイドル歌手が飛び降り自殺するという、あってはならない事件が起きた。まだ17歳だった。この事件後、橋は副社長として取材に応じた。この時に出たのが、
「大損害ですよ!」
興奮した口調で悔しさをあらわにしたのだ。
お悔やみの言葉より先にこうした言葉が出たことに、筆者は衝撃を受けた。しばし沈黙が続いたが、
「もちろん、たいへん残念なことです。お悔やみを申し上げたい」
と言葉を加えた。
橋はこのアイドルのプロデュースに関わり、かなり期待していた。これから…という時の衝撃的な出来事にかなり動揺していたのは間違いない。リバスター音産のアイドルといえば、「総宣伝費30億円」と言われたセイントフォーが、事務所とのトラブルで頓挫。それだけに、期待をかけたアイドルを失った経営者側としての大きなショックから、思わず本音が出てしまったのだろう。これがもし今の時代ならば、大炎上するような失言となるだろうが、幸か不幸か、当時は大きな問題にはならなかった。
彼女の死から9日後の4月8日、今度は人気アイドル歌手の岡田有希子が飛び降り自殺し、日本中を揺るがす事態となった。この9日前に亡くなったアイドルの件は、筆者もすっかり忘れてしまっていた。
(升田幸一)

