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「もし性犯罪にあったら、気持ち悪くても“そのまま”警察へ行ってほしい」ジムで突然襲われたレイカさん(仮)の性被害と訴訟から学ぶこと

「もし性犯罪にあったら、気持ち悪くても“そのまま”警察へ行ってほしい」ジムで突然襲われたレイカさん(仮)の性被害と訴訟から学ぶこと

勝守が蘇らせた闘志

悶々としていたある日、出張で京都に行き、立ち寄った神社で可愛らしい「勝守」を見つけた時、私はこれをレイカさんに送ってみようと思いつきました。弁護士としてではなく、共に闘う同志として、法律事務所の封筒ではなく、プライベートの封筒にお守りを入れ、「この勝守は弁護士としてではなくレイカさんの友人として贈ります。もう一度、立ち上がる気持ちはありますか?」という手紙と一緒に送りました。

これは大きな賭けでした。「余計なことです」と拒否されて、溝が深まる可能性も大きいからです。こんなことをしたのは後にも先にもこの時だけです。加害者が処罰されないままでいる理不尽さへの憤りもありますが、何よりもレイカさんに後悔だけはしてほしくなかったのです。

手紙と勝守を受け取った彼女は、すぐに電話をくれました。「やります。もう一回お願いします」と。その時の彼女の目がカッと見開いて輝いていたと、傍にいたお母さんに言われたそうです。レイカさんの闘志に再び火がついたのです。

もちろん、私の心にも火がつきました。連絡をもらってすぐに、「先生、これ怖すぎる」とレイカさんが苦笑いするくらいの辛辣な抗議書を書き上げ、担当検事の上司に提出しました。そしてその翌日、検事から「オーナーを起訴する」との連絡があったのです。

このレイカさんのケースのように、検察官が「起訴しても、公判で有罪にできるかどうか危うい」と判断すると、易きに流れて不起訴としてしまうことが性犯罪ではよくあります。密室で行われることが多い性犯罪は、目撃者がいたり防犯カメラに犯行状況が映っていたりすることが少なく、その場合は加害者の自白や被害者の証言が頼りとなります。

ところが、捜査段階で容疑を認めていた加害者が公判では起訴事実を否認することもままあるため、検察官が起訴することに二の足を踏むのです。こうしてなかったことのように扱われてしまった性犯罪はかなりの数に上ると思います。そしてその分、被害者が悲痛な思いを抱えて生きていかねばならないのです。

とはいえ、レイカさんの事件を担当した検察官のような人ばかりではありません。犯罪を行った者をしっかりと処罰するべく働く検察官と、被害者を守り、その被害を回復させるために働く代理人は、本来、協力関係にあるのです。この時は私も検察にかみつく感じとなりましたが、多くの事件では、情報交換したり、まだ捜査機関が知らない情報を提供したりして、加害者に罪を償わせるために協力し合っています。

諦めないことの大切さ

レイカさんは被害者参加をし、私は被害者参加弁護士として公判に挑むことになりました。公判になると案の定、被告人であるオーナーは証言を覆し、自らの行為がレイカさんと合意のうえであったと言い出しました。

けれど、途中でレイカさんが嫌がっていたのが分かったのでやめました、という弁解です。

自らズボンを下げたにもかかわらず、「太っていてお腹が出ているので勝手に脱げた」などと身勝手かつ滑稽な言い訳を繰り返し、裁判官にも呆れられていました。判決は実刑で懲役2年4か月。レイカさんが勝ちました。

公判の時、レイカさんと私はお揃いの赤い勝負パンツで臨みました。レイカさんが「2人で気合を入れよう」と用意してくれたものです。前日の夜、お互いに「赤パンツ装着!」「こちらも装着済み」などと冗談めかしたメールを送り合ったことも思い出に残っています。

レイカさんとは今でも時々連絡を取り合っていますが、裁判が終わってしばらくしてから、嬉しい話を聞きました。被害に遭ってから見ることができなくなってしまった大好きなボクシングの試合を、再び観戦することができたそうです。

一度は諦めながらも、再び奮い立ち、自らの被害に向き合ったレイカさんの強さに、私は今も励まされ続けています。犯罪被害に遭ったという事実は消えませんが、そのことに区切りをつけて前に進むために、刑事裁判に被害者参加をして向き合うことはとても重要だと、レイカさんの姿を見て私は確信することができました。

この事件では「刑事損害賠償命令の申立て」も行いました。この制度は、刑事裁判を担当した裁判所が、有罪判決だった場合にその被害の損害賠償についても審理する制度です。刑事裁判の成果をそのまま利用できるため、改めて民事訴訟を起こす必要がなく、被害者の負担が軽減されます。

一審判決で有罪となったあと、オーナーは賠償金を支払うと言ってきました。裁判所が命じた金額は、こちらが請求した金額の3分の2でしたが、実刑となったことに慌てたのか、任意でその差額を上乗せして全額を支払うと言うのです。

この賠償金を受け取るかどうか、レイカさんと私はとても迷いました。なぜなら、もし被告が控訴した場合、被害者が賠償金を受け取ったことが控訴審での判決に影響を与えるからです。結局は受け取ることにしましたが、控訴審でオーナーは否認していた犯行をあっさりと認め、実刑を免れて執行猶予付きの判決となってしまいました。

レイカさんは「お金を受け取らなければよかった」と、とても悔しがりました。

もちろんその気持ちはよく理解できるのですが、被告人は一審の時点では全く起訴事実を認めるそぶりがありませんでしたし、賠償しなくても、控訴審で罪を認めて謝罪するだけで執行猶予が付く可能性も大いにありました。結果的に執行猶予となりましたが、一審で実刑を勝ち取ったということに変わりはありません。

私は、賠償金を支払わせることも、加害者が罪を償う方法としてとても重要なことであると考えています。日本では損害賠償について「お金で解決なんて」「結局は金目当てか」などと否定的に捉える人が多いのですが、被害者にはそれを求める権利があります。

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