「コロナは終わった」――。パンデミックが落ち着いたいま、そのように感じている人も多いのではないでしょうか。しかし実は、いまも新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の後遺症に苦しんでいる人たちがいます。症状は多様で外見からは分からないものも多く、仕事や学校に行けなくなる人も少なくありません。後遺症になってしまった場合、治療方法はあるのでしょうか。回復までにどのくらいの時間がかかるのでしょうか。岡山大学病院 総合内科・総合診療科は2021年2月に「コロナ・アフターケア外来」を開設し、これまで約1300人の患者さんを診療チームで診てきました。同科で教授を務める大塚文男先生に、新型コロナ後遺症の実態と治療手段、回復への道のりを聞きました。

監修医師:
大塚 文男(岡山大学病院)
岡山大学病院総合内科・総合診療科/感染症内科科長
岡山大学病院検査部長・超音波診断センター長
全人的医療のできる総合内科医・総合診療医の育成と大学院教育の両立を目標に、Physician Scientistの醸成にも取り組んでいる。
【略歴】
1992年岡山大学医学部医学科卒業
1999年米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部研究員
2003年岡山大学医学部・歯学部附属病院助手
2005年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科助手
2007年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科助教
2009年岡山大学病院内分泌センター准教授
2011年岡山大学病院内分泌センターセンター長
2012年岡山大学学術研究院医歯薬学域 総合内科学教授
コロナ後遺症は「甘え」ではない、どの年代にも起こる医学的病態
編集部
そもそもコロナ後遺症とは、どのような状態を指すのでしょうか。
大塚先生
新型コロナに感染した後、少なくとも2カ月、通常3カ月間症状が続き、ほかの病気では説明できない場合に診断されます。新型コロナに感染した人のおよそ4~10%に生じると考えられています。
編集部
どの年代に多いのでしょうか。
大塚先生
私どもの外来を受診した約1300人のデータでは、30~50代の働き盛りが約6割、学生を含む10代も1割強を占めています。社会活動が活発な年代に多いため、就職や進学、受験といった人生の大切な場面にも大きな影響が出てしまう人が少なくありません。
コロナ後遺症を知るうえで大切なのは、これは「甘え」や「怠け」ではなく、体に明確な影響のある医学的な病態であり、患者さんの日常生活に大きな支障をきたすものだということです。だからこそ、適切な支援が必要です。
どんな症状が、いつまで続く?
編集部
コロナ後遺症の症状と回復までの期間について教えてください。
大塚先生
主な症状は全身倦怠感(だるさ)で、頭痛、不眠(睡眠障害)、めまい、記憶があいまいになったり集中力が低下したりする(ブレインフォグ)などもみられます。複数の症状が変動しながら重なることも多く、日常生活に支障をきたします。
以下は後遺症の七大症状と考えています。
・倦怠感
・頭痛
・睡眠障害
・嗅覚障害
・味覚障害
・呼吸困難感
・集中力低下
経過は個人差が大きいものの、多くの人は6カ月ほどで快方に向かいます。一方、半年以上症状が残る人も一部います。私たちの外来では、患者さんの半数以上が初診から180日以上の通院が必要な状態で、症状も3つ以上を抱えていました。すなわち、コロナ後遺症は回復までに一定以上の時間を要する病気だといえます。さらに、後遺症が180日以上継続すると筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に移行する可能性があることがわかっており、長期間続く倦怠感には注意が必要です。
「そのうち治る」は危険―早期受診・治療は後遺症予防の鍵
編集部
パンデミック当時に比べて現在は、多少発熱しても「風邪かな」「そのうち治るだろう」と自己判断し、受診しない人は多くなったと思います。
大塚先生
自己判断で受診を遅らせることは危険です。だるさが非常に強い場合は、新型コロナやその他のウイルス感染症である可能性があります。もし新型コロナだった場合は治療が遅れて重症化すると後遺症リスクも上昇します。また、受診が遅れると、細菌性肺炎などの二次感染を見逃したり、発熱が引き金になって持病が悪化したりするリスクも生じます。ですからまずは一度医療機関にかかってコロナ感染の可能性がないかを検査し、治療すべきかどうかを判断してもらうことが大事です。
編集部
急性期治療のタイミングが後遺症に関係するのですか?
大塚先生
はい。発症の早い段階で抗ウイルス薬などによる適切な治療を受けた人では、後遺症の発生率や重症度が低いことを示唆する研究報告が出ています。一方で、後遺症に対する特効薬はまだないのが現状です。だからこそ「コロナにかかったかも」と思ったらすみやかに受診し治療の要否を判断してもらうことは、後遺症にならないという意味でも重要なのです。
後遺症リスクが高い人の特徴は? 持病コントロールの重要性
編集部
後遺症の残りやすさに違いはあるのでしょうか。
大塚先生
国内外の研究で共通する後遺症リスクとして、女性、40歳以上、肥満、喫煙者、特定の持病のある人が挙げられます。具体的には、糖尿病、気管支喘息、腎臓病、心臓病、不安やうつなど精神疾患、免疫抑制の治療を受けている人などです。また、感染をきっかけに持病そのものが悪化するケースも少なくありません。糖尿病の人は血糖のコントロールが乱れやすくなりますし、全身の炎症が起こることで、もともと持っているアレルギーや自己免疫の病気を活性化させるという報告もあります。
編集部
持病のある人が新型コロナに感染しても後遺症を残さないために、普段から備えておけることはあるのでしょうか。
大塚先生
備えの基本は、持病をきちんとコントロールしておくことです。糖尿病なら血糖値を、高血圧なら血圧を普段から安定させておくことが、万が一感染した際の体へのダメージを最小限に抑えます。なお、重症化および後遺症予防の観点からはワクチン接種も推奨されます。
また、見落とされがちですが、栄養と休息も非常に重要です。食事や睡眠が乱れていると後遺症が長引きやすい傾向にあります。実際に、後遺症が残った患者さんの血液を調べてみると、ビタミン・ミネラルやさまざまな栄養素が不足していたり、ホルモンのバランスが不調となっているケースが少なくありません。日頃から生活リズムを整えておくとよいでしょう。
そのほか、マスクや手洗い、換気といった基本的な感染対策を怠らない、いざというときにはかかりつけ医や発熱外来へすぐに連絡できるよう受診の流れを前もって確認しておく、といった心がけも大切です。
編集部
人が集まる季節行事の時期は特に気をつけたいですね。
大塚先生
新型コロナは1月と8月の2回ピークが訪れ、お正月やお盆と重なります。若年層は罹患しても熱がそれほど高くならず、自分が感染していることに気づかないまま過ごしていることがあります。家族行事などの集まりが控えているときに少しでも怪しいと思ったら、かかりつけ医で診てもらう、あるいは市販の抗原検査キットで調べてみるだけでも、ご家族を守る対策になります。
後遺症とQOL*―子どもの進学や将来への影響は?
編集部
コロナ後遺症は仕事や学業といった人生の大切な場面にも影響を及ぼすとのことでしたが、具体的にどのような影響が生じるのでしょうか。
大塚先生
大人と子どもに分けて説明します。まず大人の場合、私どもの調査では、就労している患者さんの約54%に休職や退職、時短勤務への移行、仕事のパフォーマンス低下といった深刻な影響がありました。
コロナ後遺症と仕事の関係において難しいのは、後遺症が「外見からはつらさが分からない」ことです。本人は強い倦怠感や頭のぼんやり感に苦しんでいるのに、周りからは普段どおりに見えるので、「怠けているのでは」と誤解されやすいのです。このような精神的苦痛と周囲の理解不足が本人の孤立感を生み、回復をさらに遅らせることもあります。
編集部
子どもの後遺症についても教えてください。
大塚先生
子どもにも後遺症は起こります。大人と同様、倦怠感、頭痛、睡眠障害が三大症状ですが、低年齢の子は言葉で自分の症状を表現できませんから、保護者がお子さんの様子をよく観察する必要があります。
子どもの後遺症の頻度は大人より低く、大人に比べて治りやすいことも分かっています。10代前半のお子さんの後遺症は回復が早い傾向にあります。注意したいのは10代後半の思春期世代で、治療が難航するケースも珍しくありません。思春期世代の後遺症ではめまい、集中力低下、睡眠リズムの乱れなどを訴えることが多いとされています。またこの年代では、感染症そのものによる身体的影響に加え、学校への不安や対人関係などの精神的ストレスが症状と絡み合っている可能性も考慮する必要があります。
このほか、子ども特有の後遺症として、立ちくらみや朝起きられないといった症状があります。これは、立っていると具合が悪くなり、横になると楽になる「起立性調節障害」と呼ばれる自律神経の不調で、もともと思春期に起こりやすいものですが、そこに後遺症が重なると悪化しやすくなります。
後遺症が長引くほど、学校生活にさまざまな影響が生じることが危惧されます。たとえば、不登校状態が続いたり、登校はできても授業についていけなくなったり、部活動を続けられなくなったりするかもしれません。冬にかかれば翌年の受験に影響することもあります。子どもの後遺症に関しては、欠席の扱いや授業中の休憩、体育への参加方法など、保護者と医療機関と学校が連携し、お子さんが安心して回復できる環境をつくることが大切です。
*QOL:生活の質
後遺症は治る? 特効薬は未開発、オーダーメイドケアで回復目指す
編集部
後遺症に対しては、どのような治療が行われるのでしょうか。
大塚先生
後遺症そのものを治す特効薬は、2026年8月現在まだありません。基本的な治療方針は、一人ひとりの症状に合わせた対症療法とリハビリテーションなどを丁寧に積み重ねていくことです。たとえば、頭痛には頭痛薬、眠れない人には睡眠薬を処方します。不足している栄養素が見つかれば補い、倦怠感には体の元気を補う漢方薬を症状の程度や体質に合わせて使うこともあります。ブレインフォグに対しては認知機能回復のためのリハビリテーションを行います。
後遺症の治療は医師、看護師、薬剤師、作業療法士、理学療法士、臨床心理士などがチームになり、多職種連携で体と心の両面から患者さんをケアしていく、まさに「オーダーメイドの診療」です。
多くの場合、しっかりとケアを受け続けることで後遺症は少しずつ回復していきます。時間はかかり、回復までの期間にも個人差はありますが着実によくなっていく病気ですから、「もう治らない」とあきらめず、コロナ後遺症の診療を実施している医療機関にご相談ください。
その症状は「本物」、回復までの道のりをあきらめないで
編集部
最後に、後遺症に悩む人、「もしかして」と不安な人へメッセージをお願いします。
大塚先生
まずお伝えしたいのは、あなたが感じている倦怠感や息切れ、頭のぼんやり感は、気のせいや怠けではなく本物の症状かもしれません。コロナ後遺症以外の病気が原因となっている場合もありますので、まずは病院を受診することが大切です。周りに理解されずつらい思いをしているなら、一人で抱え込まず、総合内科や総合診療科のある医療機関、またはコロナ後遺症の診療をしている医療機関を受診してください(厚生労働省の公式サイトにリンクします)。
コロナ後遺症の回復には時間がかかることがあります。体調には波があり、一直線に良くなるケースは少数です。しかし、体調の波=悪化ではありません。焦らず急がず、無理のないかたちで、医療者と伴走しながら回復を目指していきましょう。かかりつけ医と相談しながら適切な休息をとり、治療を継続することが、回復への近道です。

【特集】感染症のこと、正しく理解していますか? 専門家たちに学ぶ「賢い向き合い方」
- 元分科会長・尾身茂氏が語る新型コロナ…あのパンデミックの“真相”と「今も意識すべき3つのこと」
──────────── - その発熱、“様子見”は『危険』かも―― 感染症と熱中症、早く受診しないと「できなくなる3つのこと」【救急医解説】
──────────── - “新型コロナ後遺症”5類移行から1年も相談減らず「症状で苦しむ患者が絶えない」
────────────

