家族信託のデメリットと注意点
様々なメリットがある家族信託ですが、その一方でデメリットと注意点もあります。
家族信託のデメリットと注意点
受託者を誰にするかで揉める場合がある
遺言書が不要になるわけではない
身上監護に必要な契約等が不十分になる場合も
相続税負担の軽減は期待できない
受託者や受益者が課税対象に
家族信託に精通している専門家が少ない
メリットばかりに目が行きがちですが、しっかりとデメリットについても理解した上で検討するようにしてください。
注意点についてわかりやすく解説していきます。
デメリット1. 受託者を誰にするかで揉める場合がある
家族信託は信頼できる家族に財産の管理方法や処分方法を委託する方法ですが、厳密には財産の名義が受託者のものに変更となります。
あくまで委託者と受託者間での信頼関係によって取り決めを行う契約なので、受託者の判断で財産を悪用することもできてしまうことがデメリットです。
また、家族信託によって受託者を選ぶ際、選ばれた人は他の選ばれなかった親族から除け者扱いをされたり疎まれたりする可能性もゼロではありません。
そのため、受託者を選ぶ場合には選ばれなかった人に対して、家族信託における十分な理解や受託者への配慮を求めることが必要不可欠といえます。
デメリット2. 遺言書が不要になるわけではない
家族信託のメリットで遺言書としての機能があることを挙げましたが、家族信託は遺言書そのものに成り代わる契約ではありません。
たとえば、家族信託契約書に記載のない財産については受託者が管理する権利を有していないことから、通常通り遺言書による遺贈などで譲渡先を決めておく必要があります。
遺言がない場合には相続人全員で遺産分割協議を行う必要がありますが、家族間での相続争いの原因となることも考えられるため、可能であるなら生前に遺言書を作成しておくことが望ましいでしょう。
つまり、家族信託を利用するからといって遺言書が不要になるわけではないので誤解しないようにご注意ください。
デメリット3. 身上監護に必要な契約等が不十分になる場合も
家族信託はあくまで財産の管理・処分方法についての委託を行う契約であるため、身上監護(病院や施設への入所手続き)に必要な契約等は行うことができません。
ただし、通常は同居の家族や親族であることが認められれば身上監護に必要な手続きを行えることが一般的なので、そこまで大きなデメリットとはならないでしょう。
しかし、家族以外を受託者として家族信託を利用する場合、これらの手続きは受託者では一切行うことができないので、それとは別に成年後見人を選任するなどの手続きが必要となるのでご注意ください。
デメリット4. 相続税負担の軽減は期待できない
家族信託を利用することで事業承継の際に贈与税を発生させずに済みますが、受益者に対しては「相続税」が課されることになります。
財産そのものを受け取っていない受益者に対して「財産が譲渡された」とみなされて多額の税金が発生する可能性があるので、むしろ税負担が大きくなることが考えられます。
そもそも家族信託は、信頼できる家族に財産の管理や処分を委託することで委託者が希望する形で財産の在り方を取り決める制度です。
そのため、不動産を売却するなどの一部の例を除いて、基本的には税負担の軽減効果は期待できないものと思っておきましょう。
デメリット5. 受託者や受益者が課税対象に
家族信託を利用して賃貸用不動産を委託した場合、以下のような税金が発生します。
家族信託によって管理を委託される財産(信託財産)は、その財産によって生み出される利益を受け取る人が実質的な所有者とみなされることから、受益者に対して贈与税が課されます。
それに加えて、信託財産から受け取った利益についても所得税が課されることになるので注意が必要です。
固定資産税については、信託財産に含まれる不動産の登記簿上の所有者である受託者に対して通知が行われますが、信託契約書によってその不動産から利益を受け取る受益者が負担するのが一般的です。
ただし、不動産を信託財産にすると「所有権移転登記」を行う必要があり、この手続きを行う際に登録免許税の支払いが発生するので、家族信託で不動産の管理を委託された場合には様々な税金が発生することを覚えておきましょう。
なお、委託者自身を受益者に設定する「自益信託」の場合には贈与税は発生しません(所有者が変わっていないため)。
また、不動産における税金として有名な「不動産取得税」に関しては、信託財産による所有権移転登記はあくまで形式上の手続きであるという観点から課税されることはありません。
デメリット6. 家族信託に精通している専門家が少ない
家族信託は2007年から登場した比較的新しい制度です。
そのため、家族信託の先例や判決事例に精通している専門家が少なく、情報収集に難があることが欠点といえます。
とはいえ、書籍やインターネット、テレビなどのメディアからの情報だけで判断するのは非常に危険なので、家族信託についての見識がある人を見つけ出して、必ず相談してから手続きを行うようにしてください。
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家族信託の手続きの流れ
家族信託を利用するためには、以下の手順に沿って手続きを行う必要があります。
家族信託の手続きの流れ
事前に家族間で家族信託を行う目的と契約内容を話し合う
信託契約書を作成して公証役場にて「公証」を行う
信託契約書の内容に従って信託財産の登記や名義変更を行う
信託専用の銀行口座を開設する
信託財産の管理・運用を行う
家族信託契約書には所定のフォーマットはありませんが、専門家に相談をしながら記載内容等を決めて作成するのが一般的です。
信託契約書に記載される主な内容は以下の通りなので、書類を作成する際の参考にしてください。
信託契約書は後々のトラブル回避を目的として、公証役場にて公正証書として作成するようにしましょう。
公証役場は日本全国に設置されているので、日本公証人連合会の公式ホームページから最寄りの公証役場をお探しください。
家族信託にかかる費用
家族信託を利用する際には、ある程度の費用が必要です。
ただし、信託財産の中に不動産が含まれない場合や、公正証書を作成しない場合はそこまで高額な費用がかかるものではないのでご安心ください。
以下、家族信託を利用するにあたって発生する可能性のある費用の一例をご紹介します。
家族信託にかかる費用
信託契約書を公正証書にする場合
公証役場で支払う実費として1〜5万円程度
信託財産に不動産がある場合
登録免許税として固定資産税評価額の4/1,000程度、土地信託の場合は3/1,000程度になる
コンサルティングを依頼した場合
信託財産が1億円までは1%、それ以上の部分については0.5%が相場
信託監督人・受益監督人を置く場合
月額1万円程度
これらはあくまで一例なので、実際に家族信託を利用する場合と金額が大きく異なるケースもありえます。
詳細についてはプロの専門家までお問い合わせください。