最適範囲の人まで高血圧と診断される

ここで下のグラフを見てください。これは私が、日本総合健診医学会所属の北海道から沖縄まで全国45施設から、約70万人のデータを集めて策定した、男女別・年齢別の血圧基準範囲(2004年発表)です。

健診を受けた人から異常の可能性がある人を除いた「基準群」から計算したもので、米国の代表的な臨床検査協会などと同じ方法です。

上限値と下限値の間が、70万人調査でわかった正常者の中央95%値(正常者の中で検査値が極端に高い2.5%と極端に低い2.5%を除いた範囲)で、いわゆる「正常値」です。

血圧がこの範囲に収まっていて、他に異常がなければ、治療の必要はありません。

目標上と目標下の間は、正常者の中央50%値(正常者の中で検査値が高い25%と低い25%を除いた範囲)で、「最適範囲」を指しています。

男女別・年齢別の高血圧基準範囲[大櫛陽一先生作成]

一見してわかる通り、年齢が高くなるほど、血圧の基準範囲も上がっていきます。かつて最大血圧の基準は「年齢+90mmHg」といわれていましたが、おおむねそれに近い値です。

それに対し、2019年に改訂された日本高血圧学会による最新の「高血圧治療ガイドライン(JSH2019)」では、130/85mmHg以上で「高値血圧」として治療の対象とされます。

これは高齢者の場合、私の策定した基準範囲では最適範囲に当たる人まで、「治療が必要」と診断されてしまう基準です。

おまけに、本来は下げる必要のない適正範囲の血圧なのですから、食事や運動だけでJSHの目標値をクリアするのは困難です。ほとんどの人は、「生活習慣による改善不能」として、降圧薬が処方されることになります。

しかし、薬には必ず副作用があります。本来、適正血圧の人が、不必要な薬による副作用で死亡リスクを上げる原因となっている、現在の低過ぎる基準値は、非常に問題があると言わざるを得ません。

そもそも基準値を低くすれば、それだけ「治療が必要」とされる人が増え、多くの薬が使われて、製薬会社は莫大な利益が上がります。その利益供与を受ける人が基準値作りに関わっているために、適切な値よりも大幅に低い基準値がまかり通っているのです。

欧米では基準値の適正化が進んだのに対し、日本では抜本的な見直しが行われないまま、現在に至っています。それどころか、血圧の降圧目標値をさらに引き下げるような、世界に逆行する動きが続いています。

高血圧で注意が必要なのは、すでに心肥大や心不全などが起こっているケースです。この場合は、緊急避難的に降圧薬を使う必要があります。

しかし、それ以外の人は、JSH基準で高血圧と言われても、上グラフの基準範囲内であれば、血圧を無理に下げる必要はありません。 

基準範囲を超えていても、安易に降圧薬を使わず、「DASH食(※1)」や運動、ストレス解消などでの、自然な血圧降下を目指しましょう。

※1 DASH食:米国立保健研究所が提唱した高血圧患者のための食事療法。塩分を控え、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維、たんぱく質を積極的にとるのが特徴。  

また「本態性(他に原因となる病気がない)高血圧」と診断されていても、実際は糖尿病や腎臓病、原発性アルドステロン症(副腎の腫瘍が原因で起こる高血圧)など、別の病気が影響していることが珍しくありません。そうした別の病気の治療を進めることも重要です。

この記事は『安心』2020年12月号に掲載されています。

画像参照:https://www.makino-g.jp/book/b545170.html