脳のゴミがたまる原因とは

では、「脳のゴミ」はどのようにしてたまっていくのでしょうか。最新の研究も含め、主な原因を三つご紹介します。

分解酵素の不足

私たちが食事からとった糖を細胞に取り込む「インスリン」というホルモンがあります。インスリンは、血糖値が上がったときに膵臓から分泌され、血糖が細胞に取り込まれて血糖値が下がれば、お役御免で分解されます。

このインスリンを分解する酵素は、アミロイドβを分解し、排出する働きも担っています。

そのため、糖尿病などインスリンが大量に分泌される状況では、酵素はインスリンの分解だけで手いっぱいになり、アミロイドβの分解がおろそかになってしまうのです。

たとえ糖尿病までには至っていなくても、血糖値を急激に上げる甘い菓子や清涼飲料などは要注意です。特に、これらをすきっ腹にとり過ぎると、インスリンが大量に出て分解酵素に負担がかかるので、できるだけ避けましょう。

睡眠の質の低下

2019年にアメリカのボストン大学の研究チームが、アミロイドβと睡眠に関する、興味深い研究結果を発表しました。

ノンレム睡眠(深くぐっすりと眠っている状態)中の脳で、神経伝達が静かになると脳細胞(グリア細胞)が縮み、その隙間に脳脊髄液が流れ込んで、さまざまな「脳のゴミ」を洗い流す現象が確認されたということです。

以前から、睡眠の質が低いほど、アミロイドβの脳への蓄積が多いことが知られていましたが、その理由の一端が明らかになったと言えるでしょう。

歯周病菌

2020年、九州大学の武 洲准教授らの研究チームが、歯周病菌に感染させたマウスの脳内のアミロイドβの蓄積量が、感染していない群に比べて10倍も増加し、記憶力も低下することを明らかにしました。

歯周病の原因菌であるジンジバリス菌をマウスに3週間投与したところ、マウスの歯茎などで発生したアミロイドβが血管を通して体内に入り、脳に蓄積していくメカニズムが発見されたということです。

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脳のゴミを排出する栄養素とは

では、こうした「脳のゴミ」をきれいに排出するためには、どうすればよいのでしょうか。

「脳のゴミ」をクリーニングするためには、①食事(栄養)、②運動、③生活習慣が重要です。中でも私は、普段の食生活で、脳を元気にする栄養素をしっかりと補給しておくことの重要性を強調しておきたいのです。

基本的なバランスのよい食事であることはもちろん、いくつかポイントがあります。

良質の脂質をとる

脳は、水分を除くと、約60%が脂質で構成されています。脂質が不足すると、神経伝達細胞間で、うまく情報が伝達されなくなります。

青魚の魚油に含まれるDHAやEPA、クルミなどのナッツ類に含まれるαリノレン酸といったオメガ3系脂肪酸、大豆や卵黄に含まれるレシチン(コリン)などのリン脂質は、脳細胞や神経細胞の主な材料となる「よい油」の代表です。

抗酸化物質をとる

前に述べた通り、アミロイドβは活性酸素を発生させ、周囲の脳細胞をサビ(酸化)させ、傷つけていきます。この活性酸素を中和し、脳の細胞を守ってくれるのが、抗酸化物質です。

トマトのリコピン、エビやカニ、サケなどに含まれるアスタキサンチン、ゴマリグナン(セサミンなど)、大豆に含まれるイソフラボンのようなカロテノイド(黄色や赤の色素成分)やポリフェノール(苦味などの成分)の他、ビタミンA・C・Eも抗酸化作用を持っています。

ビタミンB群をとる

ビタミンB群、特にビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシンは、糖をエネルギーに変える糖代謝に密接な関わりを持っています。そのため、ビタミンB群が不足していると、脳がエネルギー不足になります。

おまけに、糖代謝がスムーズにいかなければインスリンの余計な分泌が必要となり、その分、アミロイドβの分解のために働ける酵素が足りなくなってしまいます。

また、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった脳内ホルモン(神経伝達物質)を産生するには、たんぱく質(アミノ酸)とビタミンB群(特に葉酸、ビタミンB6、ナイアシン)が必要です。

脳内ホルモンは、神経細胞と神経細胞の間で情報の伝達を担う物質ですから、適切な量が分泌できるように材料を補給することは非常に重要です。

ビタミンB12は、神経賦活作用があり、神経細胞にダメージを与えるホモシステイン酸を無毒化する働きがあります。