きびしい寒さが続くこの季節、道すがら自動販売機を目にすると、あたたかな飲み物を手にほっと一息つきたくなる。東北の地に真っ白な雪が降る中、福島県国見町の老舗文具店・武田紙店では、ホットスープやマスキングテープを販売する「おもしろ自販機」を2021年11月から設置し、注目を浴びている。

「武田紙店」と大きく書かれた看板と、鮮やかなスカイブルーの自動販売機が目を引く。見慣れぬ「猫」と「マスキングテープ」のデザインもあしらわれているようだ。
店主の武田さんが「おもしろ自販機」と名付けて設置したこの自動販売機は、その名の通り、飲料を販売しているような一般的な姿とはかけ離れる。

修正ー店舗跡地.jpgこの「おもしろ自販機」のラインアップを紹介しよう。
上段から、人気のジュース類、その隣にマスキングテープの6本セット、3本セット。

中段には「すっぽんスープ」「一風堂ラーメンスープ」「しじみ汁」「カレーな気分」「鶏白湯」といった、冬の身体に染み入るようなホットドリンクの面々。それも、飲み会の帰り道につい買ってしまいそうな、あるいは二日酔いの頭痛を和らげたいと願いながらボタンを押すようなジャンルの数々である。

下段には「プレミアムうまい棒」などのお菓子に加え、「すみっコぐらし」のグッズ、そして同店のオリジナル商品「国見町のマンホールコースター」。この多様性の時代、全国津々浦々、きっと多種多様な自販機があるとは思う。しかし文とび読者の方々はこうした自販機を、これまでに見たことがあるだろうか。

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「スープの自販機」でもなければ「お菓子の自販機」でも「文具の自販機」でもない。なぜこのような自販機を置くことになったのか、武田紙店の3代目・武田さんに話を伺った。

「最初は店舗で販売していたマスキングテープの在庫が多くなってしまって、『自販機とかで売れたらな~』と冗談で話していたんです。それでネットで調べて、仙台市にある松本事務機という会社から、自販機の業者さんを紹介してもらって、本当に実現することになりました。それでも、ただ自販機で売るだけではつまらない、他のお店ではやってないようなことをやりたいと思って、スープやお菓子を加えてみました」。武田さんは取材の電話越しに、あっけらかんとそう話す。

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話を聞いているうちに、マスキングテープになんと「重り」が付いていることも分かった。
「マスキングテープは軽いので、重りをつけないとうまく中から落ちてこなくて。なので重りとして砂袋をつけています」。自動販売機の構造上必要なことだそうで、ここでマスキングテープを購入すると、もれなく「砂袋」も付いてくる。ちなみにマスキングテープの価格は3個入りで500円、6個入りで800円。

そんな風に「おもしろ自販機」について教えてくれる武田さんだが、この自動販売機を置くことになった背景にあるのは、2021年2月に起こった震度6強の地震だ。
「その時の地震で、それまで守ってきた店舗が倒壊してしまいました。あの東日本大震災にも耐えたんですけどね。それで、祖父の時代から3代続いた店舗を取り壊しました」。

戦後間もない頃に建ち、改修しながら受け継いできた大切な店舗だった。今は残念ながら更地になってしまったが、その跡地では「おもしろ自販機」が、多様な商品を取りそろえながら24時間体制でお客を迎えている。

季節が変わったら自販機の中身は替えるんですかと尋ねると、スープだけでなく「いろんな味のサイダーを並べようかな」と武田さん。今後もっと「おもしろい」自動販売機になっていきそうだ。