技術の進化やリモートワークなどで活動量が減った今、糖質は「非常食」なのだとか。ダイエット専門医・前川智先生に詳しく教えていただきます。
—- アルコールやタバコなどと同様に、やめたくても我慢できない中毒状態に陥ることがある糖質。糖質の過剰摂取により、一見痩せているようでも、内臓脂肪が蓄積している「内臓脂肪型肥満」になる可能性もあるとのこと。やはり、年齢や体型を問わず、食生活を見直す必要がありそうです。現代を生きる私たちは、糖質とどのようにつきあっていけばよいのでしょう。専門医の前川智先生にうかがいました。
大切なのは活動量と糖質摂取量のバランス
前回、「糖質は、ほぼ100%、しかもスムーズに体内に吸収される」とお伝えしました。そのため「過剰に摂取した分はすべて体脂肪になる」とも。だからこそ「糖質制限」「糖質オフ」が大切になってくるわけですが、だからといって糖質は「からだに悪い」わけではありません。
医師として、「病気」の観点からとらえれば、糖質は確かに肥満や糖尿病の元になる悪者です。でも、たとえばスポーツトレーナーの方からすると、エネルギー効率の高い糖質は強い味方になるものですよね。活動量の多い肉体労働に従事する人の食事には、やはり炭水化物はエネルギー源として有効です。
つまり、着目すべきなのは、糖質そのものの良し悪しではなく、「活動量に見合っているか」ということなのです。そして、「活動量が減った現代において、糖質はもはや“非常食”」だと、私は患者さんにお話しています。
私たちの一世代前は、日常生活でも労働においても、からだを動かすことが多かった。けれど、現代では、車に乗り、電車に乗り、エレベーターに乗り、一日中デスクワーク、買い物も通信販売…活動量はぐっと少なくなっているはず。
そうお話しすると、「でも、やっぱりごはんは3食きちんと食べたほうが、からだにいいですよね」とおっしゃる方もいます。特に真面目な女性や、お子さんをもつお母様に多いですね。
そんなとき、私はこうお伝えします。「20年前にはスマホなんてなかったですよね? でも今は、皆さん使いこなして、新しい生活にシフトしている。それなのに、食生活だけは、何十年も前と同じではおかしいと思いませんか?」と。
実際、昭和40年代から、日本人の糖質摂取量は落ちているというデータもあります。それなのに、肥満や糖尿病は増え続けている。これは、活動量が急激に減っているためだと、私は考えています。活動量を上げないのなら、糖質摂取量はもっと減らす必要があるのです。
そして、現状、肥満や高血糖などの不調を感じていないという読者の方にもぜひ、「活動量に対しての糖質の過剰摂取」について、意識をしていただきたいと思うのです。
何か食べたくなるのは血糖値のせい?
私は、患者さんたちには、「まず間食をやめましょう」とお伝えしています。意外にここが盲点で、「糖質制限=主食を減らせばほかはOK」という先入観で、ごはんの量を減らしたけれど、お菓子や果物はこれまでどおり、という方が結構いるんです。しかし、糖質制限中に最も控えたいのは「間食」です。活動量の多い子どもならまだしも、活動量の少ない大人にとって、「間食」は必要のない「食」です。
間食が習慣になっていて、食べないとどうしてもおなかが空いてしまうという方は、食べても血糖値が上昇しにくいチーズやナッツを少しだけ。そんなふうに、間食を見直したり、控えたりすることは、糖質制限の第一歩として、とても重要です。
私は、「1日3食」も、現代人の活動量を考えると、多いのではないかなと思っています。2食、活動量が乏しい人なら1食でもいい(ただし一度に大食いはNG)。本当におなかが空いたら、食べればいいと思うのです。英語で朝食のことを「breakfast」と言いますが、「fast=飢餓」を「break=破る」、つまり飢餓状態を解決する食事、ということ。調べてみると、産業革命前までは、欧米でも1日2食だったそうで、肉体労働が増えてエネルギー不足に陥ったために、朝食をとるようになったとありました。
1回の食事量を減らして回数を増やす、いわゆる「チョコチョコ食い」もよくありません。食事によって上がった血糖値が、下がる暇がないからです。
おなかの空き具合ではなく、血糖値でものを食べている人も多いですね。そもそも、食べ物が消化されるのにはだいたい3〜4時間かかるのに、どうしてお昼ごはん後の3時におやつを食べたくなるのか。それは、食後いったん上がった血糖値が下がるタイミングで、「空腹です」という血糖値センサーが反応するから。それにつられて食べてしまうのです。
その証拠に、おなかが空いたなと感じた時、チョコレートをひとかけら食べただけでなんとなく満足した経験がありませんか? 本当におなかが空いていたら、チョコレートひとかけら程度で足りるはずがないんです。これが「血糖値に食べさせられている」状態です。
「1日○食」「朝だから」「昼だから」と、回数や時間にとらわれず、自身の活動量に合わせて食事の回数を調整しましょう。食事を無意識にするのではなく、「これは本当に必要な食事か?」と、意識を向ける習慣をつけることで、糖質過多の食生活を変えていけるはずです。
—-技術の進歩によって生活が格段に便利になり、さらにコロナ禍でのリモートワークなどで、私たちの日常の活動量はずいぶんと減ってしまいました。そんな現代では“非常食”ともいえる糖質。適正な摂取を意識することは、からだを守ることにもつながるのです。最終回の次回は、なにげない日々の行動を変えていく糖質制限の「行動療法」を教えていただきます。
取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC
前川 智
長野松代総合病院ダイエット科部長、消化器内科部長。日本肥満学会肥満症専門医・指導医。医学博士。1975年大阪府岸和田市生まれ。産業医科大学医学部卒。2010年より糖質制限による食事療法・行動療法・運動療法を組み合わせた正しい減量プログラムを行う「ダイエット入院」を実施。これまでに入院した1000人以上が、100%減量に成功している。
著書に『やぶ患者になるな!』(幻冬舎)、『イラスト&図解 ゼロから知りたい! 糖質の教科書』(西東社)、監修に『内臓脂肪もすっきり落ちる やせる!糖質オフ決定版』(永岡書店)ほかがある。最新刊『いちばん見やすい! 糖質量大事典2000』(西東社)が2月下旬に発売予定。
長野松代総合病院 ダイエット科
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