胃腸の症状に悩むかたは、たいていH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)かプロトンポンプ阻害薬(PPI)を服用しているでしょう。どちらも胃酸の分泌を抑える作用がありますが、肝心なのは、2~3日で効果が現れたら、速やかに中断することです。近年になり国内外から、長期使用による害が相次いで指摘されています。【解説】松田史彦(松田医院和漢堂院長)

解説者のプロフィール

松田史彦(まつだ・ふみひこ)

松田医院和漢堂院長。1962年生まれ。87年、聖マリアンナ医科大卒業。同年に熊本大学麻酔科入局。熊本大学医学部第2内科を経て、97年に東京女子医科大学附属東洋医学研究所に勤務し、東洋医学と漢方に出合う。2000年に松田医院和漢堂を開院。心と体の健康をサポートする地域のかかりつけ医を目指しつつ、統合医療と予防医学を実践。著書に『薬の9割はやめられる』(SBクリエイティブ)がある。
▼松田医院和漢堂(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

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薬で胃酸を止めれば症状は治まるが…

胸やけや胃もたれ、胃のむかつき、おなかの張り(膨満感)。あるいは胃炎、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍。これらの症状に悩むかたは、たいてい「H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)」「プロトンポンプ阻害薬(略称はPPI)」このいずれかのタイプの薬を服用しているでしょう。

それほど、胃腸の症状によく使われる薬です。どちらも、メカニズムは異なりますが、胃酸の分泌を抑える作用があります。

冒頭に挙げたさまざまな症状はいずれも、胃酸の分泌が多過ぎて、胃粘膜や食道の粘膜が損傷することで発症します。「胃酸が出過ぎているなら、止めればよい」というわけです。

H2ブロッカータイプの薬剤には、シメチジン、ニザチジン、ファモチジンなどがあります。成分名では、ピンとこない人もいるかもしれませんが、例えば「ガスター10®️」などは耳にしたことがあるでしょう。

H2ブロッカーは長らく医療用医薬品でした。1997年から、市販薬として薬局などで購入が可能になり、それ以降、使う人が飛躍的に増えました。

一方、PPIは、H2ブロッカーよりさらに強力な作用があるため、市販されていません。胃腸の症状で病院を受診すると医師から処方されます。「タケプロン®️」「パリエット®️」などが知られています。

あまりに作用が強いので、発売当初は、投与期間が8週間と限られていました。けれども近年、用法・用量が追加承認を受けたことから、「症状が治まらない」と医師にいえば、何度でも処方してもらえます。

これらの薬はとてもよく効くので、服用すると、ほんとうに胃酸が出なくなります。悩まされていた胃の症状がピタリと治まり、患者さんは喜びます。

でも、ちょっと待ってください。体は、必要があるから胃酸を出しているのです。

胃酸は強力な酸で、食べ物の消化や栄養の吸収を助けます。胃酸が出ず、食べ物がきちんと消化されないまま腸に送られると、必要な栄養素が吸収されず栄養状態が悪化。さまざまな体調不良につながるでしょう。

さらに、近年になり国内外から、PPIの長期使用による害が相次いで指摘されています。

2017年には米国で、「PPIの長期使用で認知症と死亡リスクが上昇する」という研究報告が複数寄せられました。その結果を受けて、米国消化器病学会が混乱の収拾に乗り出すほどの事態となりました。

PPIが腸内細菌叢(腸内に棲息する細菌が形成する生態系)のバランスに影響を与え、それが感染症や大腸炎などのリスクを増大させるという報告もあり、問題視されています。