国立国際医療研究センターの調査で明らかになった、新型コロナ発症から調査時点までの症状は17種類に及びました。急性期から継続して残る、嗅覚障害、味覚障害、倦怠感、セキ、呼吸困難、そして回復後に出てくる、脱毛、記憶力障害、集中力低下、うつといったものがコロナ後遺症の症状です。【解説】森岡慎一郎(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院国際感染症センター国際感染症対策室医長)

解説者のプロフィール

森岡慎一郎(もりおか・しんいちろう)

国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院国際感染症センター国際感染症対策室医長。2005年、浜松医科大学医学科卒業。静岡県立静岡がんセンター感染症内科専修医、在沖縄米国海軍病院日本人インターン(チーフ)などを経て、17年より国立国際医療研究センター病院国際感染症センターに勤務。21年8月より現職。医療教育部門副部門長を兼任。日本感染症学会専門医、日本呼吸器学会専門医。
▼国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院

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嗅覚・味覚障害や脱毛は女性に出やすいと判明

私たち国立国際医療研究センターでは、新型コロナウイルス感染症(以下新型コロナ)罹患後に出る症状についてのアンケート調査を実施し、その結果について、昨年11月に論文を発表しました。ここではその内容から、現在わかっている新型コロナ後遺症(以下コロナ後遺症)の実態について、お伝えしましょう。

調査対象は2020年2月~21年3月の間に国立国際医療研究センター病院を受診した、新型コロナ回復者526人です。このうち、457人の回答を解析しました。回答者の年齢は69歳以下で、中央値は47歳。男女比はほぼ半々で、84.4%が新型コロナの軽症者でした。

この調査で明らかになった、新型コロナ発症から調査時点までの症状は17種類に及びました。これらは、次の三つのグループに分類できます。

急性期(新型コロナ発症直後から4週間)に出現する症状
 発熱、頭痛、食欲低下、関節痛、咽頭痛、筋肉痛、下痢、痰
急性期から継続して残る症状
 嗅覚障害、味覚障害、倦怠感、セキ、呼吸困難
回復後に出てくる症状
 脱毛、記憶力障害、集中力低下、うつ
 このうち、②と③が、コロナ後遺症の症状です。

②の症状のなかで、症状が出たかたが最も多かったのは嗅覚障害でした。長期にわたる嗅覚や味覚の障害は、生活の質を落とすことから、深刻な問題です。③の症状は、発症してから2~3ヵ月後に出てくる傾向がありました。

これら、②と③の症状は、いつまで残るのでしょうか。調査では、コロナ発症から半年の段階で26.3%のかたが、1年後で8.8%のかたがなんらかの後遺症に悩んでいることが明らかになりました。

新型コロナ後遺症が残る患者の割合
出典:国立国際医療研究センター「新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子による報告」

半年後で4人に1人、1年後でも12人に1人の割合です。

また記憶力障害や集中力の低下、うつといった脳機能の低下症状は、発症から1年後も、5%のかたに残っていました。これらはかなり治りにくい症状と考えられ、少なからぬ患者さんに深刻な事態が続いていることが判明しています。

誰にどんな後遺症が出やすいか、という点については、次のことが明らかになりました。

倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛の症状は、男性より女性に出やすい。
若い人、あるいはやせ型の人は、味覚・嗅覚障害が出やすい。

なぜ女性や若い人、やせ型の人に後遺症が出やすいかという理由については、現時点でははっきりしていません。

また、新型コロナ治療時の抗ウイルス薬やステロイドの投与と、コロナ後遺症については明確な相関はない、ということが明らかになったのも、本調査の収穫の一つです。