飲む量が多いほど脈拍がゆっくりに

カフェインには脈拍数を増加させる作用もありますが、これも血圧と同様に一時的なものです。

久留米大学の研究で、コーヒーを常飲していると、脈拍数は逆に減少することがわかりました。住民検診を受けた1902人の住民の15年間にわたるデータを解析したところ、コーヒーを飲む量が多いほど、安静時の脈拍はゆっくりでした。

高血圧や血管の病気のリスクは、安静時の脈拍数が多いほど高まります。ですから、健康のためには、脈はそれほど速くない方がいいのです。

脈拍数と並んで気になるのは、不整脈でしょう。カフェインが不整脈の発症リスクになるという指摘が、まことしやかに言われていますが、本当でしょうか。

昨年、大手医学誌(JAMA Internal Medicine)に載った論文が、それを明確に否定しています。

世界最大規模のバイオバンクである、英国UKバイオバンクの遺伝子情報を活用して、38万6000人を超える膨大な臨床データを再検証したところ、習慣的にコーヒーを飲む人は、不整脈の発症リスクが、1杯当たり3%低下していました。しかも、そこにカフェインの作用は関係していませんでした。

この研究から、コーヒーの不整脈予防作用はカフェインとは関係がなく、コーヒーでのカフェイン摂取が不整脈のリスクを高める可能性も低い、ということが推察されます。

2019年に、アメリカの心臓病専門誌(Journal of the American Heart Association)に発表された論文でも、コーヒーを飲まない人と比較して、1日1杯飲む人は15%、2〜3杯飲む人は14%、心房細動という不整脈のリスクが下がると報告されています。

仕事の合間などにコーヒーを飲むと、ひととき、気分がリラックスしますね。こうしてコーヒーブレイクを楽しむことも、血圧や脈拍の安定につながります。

(広告の後にも続きます)

1日3杯程度飲むと脳にいい影響がある

私が「コーヒーは薬」だと思うのは、コーヒーにさまざまな病気を予防する効果があるからです。その中から、最新のコーヒーの知見をご紹介します。

(1)脳への作用

コーヒーに含まれるカフェインには、脳を活性化させて、注意力を高める働きがあります。また、コーヒーがパーキンソン病やうつ病のリスクを減らすという報告もあります。

パーキンソン病は神経の難病の一つで、ドーパミンという脳の神経伝達物質が関係しています。以前から「コーヒーをたくさん飲む人に、パーキンソン病は少ない」といわれていました。その傾向は男性と閉経後の女性に顕著で、更年期前の女性にはあまりみられません。これは、カフェインと女性ホルモンが肝臓の同じ酵素で代謝されるからです。

また逆に、パーキンソン病の患者さんは、血液中のカフェインやカフェイン代謝産物の濃度が低いことが知られています。カフェインやその代謝物には、神経細胞の変性を防ぐなど、脳を保護する働きがあるのです。

実際に、コーヒーでパーキンソン病の運動障害が改善したという報告が、複数あります。

脳卒中の予防にも、コーヒーは有効です。これまでの臨床データを解析した論文を読むと、コーヒーを1日3〜4杯飲んでいる人は、飲まない人に比べて、脳卒中のリスクが16%低下しています。

さらに認知症との関連を調べたデータでは、中年期にコーヒーを1日3〜5杯飲んでいる人は、飲まない人に比べ、老年期の認知症の発症を65%も抑えられました。コーヒーは、脳血管性認知症の予防には、明らかに効果があると考えられます。

一方、別の論文では、1日1〜2杯のコーヒーで認知症のリスクが18%低下するものの、3杯以上飲むと発症リスクが上がる、というものもあります。

アルツハイマー病に対しては、原因物質の一つとされるアミロイドβの産生を抑えるという報告はありますが、アルツハイマー病そのものの予防効果はわかっていません。

現時点では、認知症に対しては研究途上の段階です。しかし、カフェインの脳を活性化する作用や、クロロゲン酸の抗酸化作用などを考えると、1日3杯程度の常飲は、脳によい影響を及ぼすと思われます。