コンドーム実習で伝える、「リスク」を知り「選択する」ことの大切さ

大人の覚悟があれば、性教育は変わる

日本の性教育が遅れている理由は、学習指導要領に問題があるとされているが「学習指導要領が変わるだけでは、性教育の現状は変わらない」と清水さんは言い切る。

「学習指導要領の表現は抽象的で、実はとても自由度が高く、その裁量の多くがすでに現場の教員に委ねられています。大切なのは、子どもたちが性教育を必要としていて、先生や保護者の共通理解があり、年齢・段階に対して相応しい内容であること。今回のプロジェクトは、『学習指導要領や政策が変わらない中でもできることがある』という一つの証明になったのではないでしょうか」

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「びわこんどーむくん」のモチーフになっているのは、琵琶湖に生息するビワコオオナマズ。パッケージの内側には清水さんから子どもたちに対するメッセージが

一方で、清水さん自身も教員時代は、生徒にコンドームを「渡す」ことに対しては心理的ハードルを感じていたという。

「今振り返ると、生徒たちを信じきれていなかったんですね。実際にはコンドームを配ったからといって性行為を容認していると捉えられることはないし、、急にデビューすることもないと、生徒たちと向き合ってきた今なら自信を持って言えます。また、すでに性行為を経験している子であれば、もらったから今度はちゃんと着けてみようかなという行動の変化につながる可能性も大きい。生徒たちはコンドームだけでなく、この機会を提供した大人たちの想いも受け取ってくれています」

清水さんが理想とするのは、「性」について誰もが真面目に話し合える社会。多くの中高生たちと接する中で感じた、気軽に相談できる場がないことは大きな課題だと言う。

「子どもたちが性の悩みも含めてありのままの自分が見せられ、ぽろっと弱音が吐ける、そんな安心感のある安全な環境づくりができたら、性に対するタブーもなくなり、『性教育』という言葉も必要なくなるかもしれません。子どもたちにとって学校は多様な価値観と触れ合い、話をする機会が持てる大切な場所。そんな中で、共感だけでなく違和感も経験しながら、他者と折り合いをつけることの難しさを学び合っていくことはとても重要です」

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子どもたちのために、性に対するタブーをなくしたいと話す清水さん

200名以上からの支援を受け、10,000個作成された「びわこんどーむくん」は、全国63校に配布済み(2022年6月時点)。残すところ約1,400個となり、現在も賛同する学校からの申し込みを受け付けている。今後、清水さんはコンドームの実物を用いた装着学習が自分の手を離れ、先生たちのそれぞれの創意工夫によって学校教育に定着していくことを期待している。

「びわこんどーむくん」は自主練用コンドーム2枚入りで、パッケージの内側には「わたしのカラダはわたしが決める」「セックスするとき確認しよう。大好きだからYESとは限らない」などのメッセージが記されている。「びわこんどーむくん」を通じて子どもたちの多くが、自分と相手を思いやる大切さ、自分で考え、決めることの重要さを学んでいるはずだ。

撮影:十河英三郎

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〈プロフィール〉

清水美春(しみず・みはる)

1980年滋賀県生まれ。中京大学体育学部を卒業後、滋賀の公立高校の保健体育教諭として、進学校、夜間定時制、青年海外協力隊、県競技力向上対策本部など多岐にわたる分野で経験を重ねる。青年海外協力隊時代はケニアの地方病院に2年間派遣され、HIV/AIDS対策としてコンドーム啓発活動を展開し、現地40校以上の中高生にエイズ予防講座を届けた。帰国後もライフワークとして性教育や多文化共生などのテーマで中高生や教職員等に講演を行う。教員歴19年で退職後、現在は立命館大学大学院先端総合学術研究科に所属。
「滋賀発!全国高校生10,000人に届け!びわこんどーむくんプロジェクト」サイト(外部リンク)

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