バラ園で育まれた美意識

バラの花のデッサンを続けたディオールは、デザイナーとして発表したコレクションに、「ティーローズ」「ポンポンローズ」「ローズガーデン」「イングリッシュガーデン」と、バラにまつわる名前を付けている。

ディオール シルクのカクテルドレス
胸に大輪のバラを付けたシルクのカクテルドレス、1956年、春夏コレクション。Photograph by Laziz Hamani/Dior

1956年の春夏コレクションでは『ローズ フランス』というアフタヌーンドレスが登場した。プリントは、バラの花だけでなく葉や茎をもモチーフとし、まさに彼のバラ園そのもののように見える。

また船の航海の際の羅針図を意味する「コンパスローズ」と名付けたコレクションもある。彼にとってはバラが行先を示す羅針図だったのでは、とも思える。美しいだけでなく、ノルマンディーの海からの強風に耐えて咲く、野生のバラやオールドローズの強い姿が脳裏にあったのかもしれない。

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花のような女性

ディオールのバッグ
1952年発表の、 黒バラの花びらの下に潜ませた小さなバッグ。Photograph by Henry Clarke / Dior

彼のファッションは、常に「花のような女性(femme-fleur)」を目指した。

「女性をバラの花のように美しく、幸福にしたい」という言葉も残している。

亡くなるまでに活動した期間はわずか10年間。だが彼がフランスのファッション界に残した遺産は、計り知れない。