お菓子好きなら誰もが知る自由が丘のパティスリー「Mont St. Clair(モンサンクレール)」。1998年3月20日にオープンして以来自由が丘の人の流れを変え、製菓界隈人にとどまらず流行に敏感な多くの人たちが押し寄せました。

“セラヴィ!(これが人生)”から始まった辻口博啓シェフのキャリア。製菓界の新時代の拠点「Mont St. Clair(モンサンクレール)」(自由が丘)

今回、そんな「Mont St. Clair(モンサンクレール)」の創設者であり、さまざまなコンクールで優勝し続けてきた日本の西洋菓子界を代表する、辻口博啓シェフを取材。いまやパティシエの枠を飛び越えて、地域創生から教育の現場まで、あらゆるムーブメントを生み出す辻口シェフ。そのパワフルでクリエイティブな魂の源を深堀します。

ショートケーキとの出会いが辻口シェフの人生を変えた!和菓子と洋菓子、相反する存在への思い

古くは城下町だった石川県七尾市馬出町で代々、「紅屋」(和菓子屋)を営む親元で育った辻口シェフ。家には茶室があり、小さなころから和菓子とお茶に親しんでいたそうです。
少年だった辻口シェフの人生を大きく変えたのが、小学3年生の時に招かれた友達のバースデーパーティー。

“セラヴィ!(これが人生)”から始まった辻口博啓シェフのキャリア。製菓界の新時代の拠点「Mont St. Clair(モンサンクレール)」(自由が丘)

辻口シェフ「友達の誕生日会で、初めてショートケーキを食べました。フワフワの生クリームと、あまずっぱい苺を同時に含んだ瞬間は人生で初めてのカルチャーショックでしたね。

僕は、ものごころついたころから和菓子が大好きでしたし、その道に進もうと決めていました。しかし、その時食べたショートケーキは今まで食べたケーキの中でピカイチおいしかった。

“セラヴィ!(これが人生)”から始まった辻口博啓シェフのキャリア。製菓界の新時代の拠点「Mont St. Clair(モンサンクレール)」(自由が丘)

よくよく考えると和菓子と洋菓子って同じ甘味ですが、全く相反するものです。まず作り方。洋菓子は空気を含ませながら作ります。生クリームやスポンジが良い例です。しかし、和菓子に欠かせない餡子は煮詰めて煮詰めて、空気を抜く。

さらに、西洋菓子は果実の酸味とケーキの甘さを組み合わることが多く、和菓子はお茶の渋みと餡子の甘さです。同じスイーツでもこんなに違うのかという衝撃とともに新たな道が見えました」

“セラヴィ!(これが人生)”から始まった辻口博啓シェフのキャリア。製菓界の新時代の拠点「Mont St. Clair(モンサンクレール)」(自由が丘)

和菓子とは対極的な美味しさの中で表現しているからこそ、夢中になった西洋菓子。この衝撃的な出会いから、毎日、ケーキや洋菓子店のデザインを考え、ケーキ屋さんの窓からお菓子を眺めていたそうです。

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人がやらないことをして勝利を勝ち取る“それが僕の人生!”。 ケーキにつけた決意表明の名「セラヴィ」

その後、パティシエとして立ち止まることなく突き進んできた辻口シェフに、また1つ大きな転機が訪れます。それが辻口シェフを代表するケーキ「セラヴィ」の誕生です。

真白な見た目に、規律の取れた正六角形の小さなケーキ。その上に真っ赤なラズベリーが1つ。まさに天使のような美しさです。

“セラヴィ!(これが人生)”から始まった辻口博啓シェフのキャリア。製菓界の新時代の拠点「Mont St. Clair(モンサンクレール)」(自由が丘)

辻口シェフ「『セラヴィ』とはフランス語で『これが人生』という意味。28歳の時に人生をかけて挑んだコンクールで作ったお菓子です。そして、フランス大使館主催のフランス食材を使った、プロのためのフランス菓子コンクール『ソペクサ』のピエスモンテ部門に出して見事、初優勝。

制作時はまず、真白なビジュアルで視覚に訴えようと考えました。
当時、ピエスモンテではブラックチョコレートを使うのが主流で、ホワイトチョコレートは僕一人でしたから。

“セラヴィ!(これが人生)”から始まった辻口博啓シェフのキャリア。製菓界の新時代の拠点「Mont St. Clair(モンサンクレール)」(自由が丘)

その後、ホワイトチョコレートに合う素材として、選んだのが酸味のあるラズベリーと香りの高いフレーズデボワ。それらを『ヴァローナ』のマンジャリ・ブラックチョコレートと共にムースにします。その上下は、ピスタチオのペーストで作ったスポンジでサンドしています。
そしてそれら全て包み込んでいるのがホワイトチョコレートです」

“セラヴィ!(これが人生)”から始まった辻口博啓シェフのキャリア。製菓界の新時代の拠点「Mont St. Clair(モンサンクレール)」(自由が丘)

食べると広がるベリーの香りと酸味。舌の上をなめらかに滑るムースがブラックチョコレートの深みとホワイトチョコレートの甘さをきれいにまとめます。さらに、中層のピスタチオと、底に引いたプラリネとクッキー生地の層が、ケーキ全体に食感と濃厚な味わいを与え、えも言われぬ美味しさ。

辻口シェフ「“このコンクールで優勝して、人生を変える!”と名付けた『セラヴィ』。それが27年もの間、変わらず皆さんから愛されるとは。嬉しい限りですね」