チョコレートの持つ「美味しさ」だけではなく、「人」にスポットをあてた連載「チョコと人と、物語と。」。今回の連載の舞台は、海を超えてヨーロッパを舞台に物語が始まります。今回は、前回の続きとなる後編。ポルトガルのビーントゥバーチョコレートブランドである「Feitoria do Cacao」(フェイトリア・ド・カカオ)が立ち上がる背景をお届けしていきます。

ポルトガル人スザーナさん、そして日本人の菅 知子さん、この二人がパッションを持って動き出すドラマ。二人の出会いと、チョコレート作りを始めるまでのストーリーをお届けしてきました。

今回は、サントメ島の貧困を目の当たりに強い決意を持った二人が実際にチョコレート作りを始めるところからお話を再開していきます。

アヴェイロの町はずれ。自己資金で作り上げた工房とショップ

知子さん:長い話になりましたが、ようやくチョコレート作りを始めます(笑)私もスザーナもとにかく借金をするのが嫌いで、銀行からの融資も受けたくなかったので、二人の多くない自己資金で借りれる物件を探して、アヴェイロの町はずれにある場所を見つけました。

そこは今年の4月下旬に現在の工房に引っ越す前の場所で、小さいところでしたけど地下室もあって、地下に工房を作って、1階部分に店舗と事務のスペースを作りました。それから先ほどの話の通り、2015年5月に会社を設立して、その年の12月にお店をオープンさせました。

ue_mon:遂に「Feitoria do Cacao」がスタートしたわけですね!でも、知子さんはもう通訳やコーディネーターの仕事は辞められたですか?

知子さん:「Feitoria do Cacao」が軌道に乗るまでは平行して仕事も受けていましたが、製造やオーダーが忙しくなって、最近ではコロナ禍もあって、そっちの仕事はセーブしています。ですが、今でも前から担当していたクライアントの仕事や、自分がやってみたい会社の仕事はたまに受けていますよ。

ue_mon:現在、「Feitoria do Cacao」はお二人で切り盛りされているんですか?

知子さん:はい! チョコレートの製造全般はスザーナが、それ以外のパッケージングや営業、事務は私が担当しています。人を雇ってしまうと自分たちのペースで物事を進められなくなりますし、やはり雇い主として労務や時間の管理をしなくてはいけないので、その労力は割けなくて、二人ができる範囲でやっていくということを基本にしています。でも、大量のオーダーが入ったときは、たまに知り合いにパッケージングをお願いして、私が製造のヘルプに入ることもありますよ。

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改めて考えるクラフトチョコレートメーカーとしてのビジネスモデル

ue_mon:そうなんですね! 日本のクラフトチョコレートメーカーは輸出をしているところは少ないんですが「Feitoria do Cacao」は積極的に輸出もされてますよね? 国内と国外だとどちらの需要が多いですか?

知子さん:それは圧倒的に国外の方が需要が多いですね! 特にその中でも中国からの注文は本当に凄いです。中国は味覚が発達している人が多いと思うので、美味しいものの良し悪しに敏感ですし、経済的に余裕のある方は、嗜好品に対して寛容で、凄く興味を示してくれています。あと、何より中国は人口と言う母数が大きいので、クラフトチョコレートの様なニッチな業態でも、それなりの需要があります。一方、ポルトガルは人口1000万人程度ですから、単純に中国はポルトガルの140倍の人口を抱えていることになりますよね。

ue_mon:140倍それは確かに凄いですね! 中国にはいくつかの取引先があるんですか?

知子さん:いえ、中国への輸出は独占契約をしているので、一社のみになります。でも香港は別にお取引先があります。中国の会社は2019年からお取引があるんですが、年二回の受注があって、毎回製造能力を最大限にして納品しています。特にタンザニア産のカカオ豆と、羊のミルクを合わせたシープミルクチョコレートが大人気で、中国のお取引先のオンラインショップでは、1500枚のタブレットが15分で完売します(笑)

ue_mon:15分で!? 単純に人口10分の1の日本でも、150枚のタブレットを15分で売り切るなんて、バレンタインシーズンでなければ、そうそうできないですよね。凄い購買力です! 日本はそういうところにはあまり進出してないんですよね。

知子さん:日本は日本の事情があるとは思いますが、日本のクラフトチョコレート業界は世界から見ても非常に特殊です。私たちは国内市場だけではどう考えてもやっていけないので、国外に出るしかないのですが、日本は逆に国内市場だけで収益を上げているところが殆どですよね?

日本国内だけで100以上のブランドがあって、その殆どが内需だけで経営を継続していけると言うのが本当に不思議です。でも、輸出した場合の卸値って、小売価格に比べて凄く下がってしまうので、薄利多売のビジネスモデルにならざるを得ないのですが、日本ではそれをやらない分、直接販売で利益率も良いのかなと思っています。

私たちの工房はアヴェイロの町はずれにありますし、ここまで買いに来られる方は多くないですから、直接販売をメインでは考えていないんですね。よくお客様からも「リスボン(ポルトガルの首都)でやれば流行るのに」と言うお声を頂くこともあるんですが、それこそ家賃だけで何千€もかかるし、人を雇ったり基本経費も上がるので、効率的に儲かる工夫をしないといけなくなる。そうすると自分たちが作りたいか、に関わらず、売れる商品を作っていかなきゃいけなくなるので、それは違うかなと。

ue_mon:モノ作りに専念できる環境が大事と言うことですね!

知子さん:仰る通りです。先ほども言いましたが、私たちは借金をするのが嫌いなんです。まぁ、私もスザーナも小心者と言うこともあるんですかね(笑)だから、給料の支払いや家賃の支払いに追われて、モノ作りに集中できない環境になって欲しくないんです。普通だったら銀行から融資を受けて、大きい機材を入れて、生産能力を増強して、儲けたお金で毎月のローンを返済するんでしょうけど、私たちは少しづつ稼いで、貯まったお金で設備を増強しているので、歩みはゆっくりですね。でも、金銭的なプレッシャーは無いし、モノ作りに集中できるので、マイペースで伸び伸びとしています。