脊柱管狭窄症では、神経が圧迫されて傷つき、炎症やむくみが起こります。血管と神経の境には「血液神経関門」があり、傷を早く治す働きのあるサイトカインや、神経栄養因子の多くも通してはくれません。そのため神経の傷は皮膚などと比べ治りにくいのですが、コンブなどに含まれる糖類、マンニトールには、この血液神経関門を開く働きがあります。【解説】戸田佳孝(戸田整形外科リウマチ科クリニック院長)

解説者のプロフィール

戸田佳孝(とだ・よしたか)

戸田整形外科リウマチ科クリニック院長。医学博士。1986年関西医科大学卒業。1991年英国王立整形外科病院へ留学、1992年関西医科大学整形外科大学院修了、医学博士号を取得。1997年には招聘研究員として米国タフツ大学に留学し、肥満と変形性ひざ関節症の関係について研究。1998年、大阪府吹田市に貴晶会戸田リウマチ科クリニックを開院。2004年、足底板の研究で日本整形外科学会奨励賞、2020年には日本臨床整形外科学会学術奨励賞を受賞。『腰痛は「ヤンキー座り」で治る』(マキノ出版)、『ひざの名医が食べているひざの痛みがやわらぐレンチンレシピ』(PHP出版)など、著書多数。
▼戸田整形外科リウマチ科クリニック

[別記事:病気の原因から手術の相談まで脊柱管狭窄症がよくわかるQ&A→

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座骨神経の腫れが大幅に減った!

私は、腰痛の患者さんに食事指導をすることがあります。

特に、足腰の痛みやだるさ、しびれなどを伴う脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア(背骨を構成する椎骨と椎骨の間にある椎間板が飛び出した状態)の場合、コンブだしに含まれる「マンニトール」と、貝類やレバーなどに含まれる「ビタミンB12」をとるように勧めています。

脊柱管狭窄症は、背骨の中央部にあって神経の束が通っている脊柱管が、何らかの原因で狭くなることで生じる病気です。神経が圧迫されて傷つき、炎症やむくみが起こります。

体の他の部位と同様、神経にも、酸素や栄養を届けるための血管があります。この血管と神経の境には、血液中を流れる有害な物質が神経に入らないようにするための、関所のような箇所があります。この関所は「血液神経関門」といいます。

血液神経関門は、分子が大きくて傷を早く治す働きのあるサイトカイン(細胞から分泌される生理活性物質)や、神経栄養因子(神経細胞へ栄養を届け、機能の維持や成長の要因となるもの)の多くも通してはくれません。そのため、神経の傷は、皮膚などの傷と比べると治りにくいのです。

マンニトールには、この血液神経関門を開く働きがあります。マンニトールは、コンブなどの海藻類に含まれる糖類です。うま味成分の一つで、乾燥したコンブの表面に浮かぶ白い粉の中に、マンニトールが多く含まれています。

マンニトールは、浸透圧(水を引きつける力)が高いのが特徴。ラットを使った実験では、マンニトールの注射で、血液神経関門が広がる様子が確認されました。マンニトールで浸透圧の高まった血液に、血管の細胞から水分が引き寄せられて、関門がこじ開けられるのです。

また、ビタミンB12は、貝や魚、レバーなどに多く含まれる水溶性ビタミンです。体内では、神経の材料である核酸やリン酸脂質を増やし、神経の傷を治す働きがあります。そのため整形外科では、神経痛などを改善する薬として、昔から処方されています。

2019年に、梨状筋症候群(お尻の筋肉で座骨神経が圧迫され、足に痛みやしびれが生じる病気)の患者さんに、マンニトールの点滴とビタミンB12を服用させた実験の報告がありました。

結果は、実験前は86.4%の患者さんに見られた座骨神経の腫れ(浮腫)が、6ヵ月後には18.2%に減少。これは、神経にたまった水分がマンニトールによって血液に引き寄せられたのと、開いた血液神経関門からビタミンB12やサイトカインなどが送り届けられて、神経の傷の治りが早まったためだと考えられます。