高速道路に“歩行者”出現の衝撃 「はねてしまった」自動車の“過失”はどのくらい?

静岡県・東名高速道路下りの本線上で、9月28日、トラックにはねられた男性が死亡する事故が起きた。その後、警察は事故の状況などから、男性が自殺しようとした可能性があると発表した。

事故後、高速道路の路肩に止まった車の陰から、男性が走行中のトラックの前に向かって飛び出す、ドライブレコーダーの映像がSNS上に拡散された。この映像が今回の事件のものであるかは不明だが、それを見た多くのドライバーから「これは避けられない」「これでも運転手の過失になってしまうのか」と不安の声があがった。

高速道路上にも歩行者がいる

並走車や後続車もスピードを出している高速道路での事故リスクを避けるため、運転手には一般道以上の慎重さが求められる。しかし、本来高速道路上にいるはずのない「歩行者」が目の前にあらわれたら、咄嗟に事故を回避することは相当難しいと言えるのではないだろうか。

高速道路の入り口には「歩行者・自転車立ち入り禁止」といった立ち入り防止措置がとられ、首都高速道路のTwitterアカウントでも、歩行者や自転車ユーザーに向けた注意喚起の動画が投稿されている。

しかし、国土交通省によると、高速道路への歩行者等の立ち入り件数は、2019年度に約4000件発生していたという。2011年度には約2600件であり、倍増に近い。

歩行者の立ち入りと聞くと、たとえば認知症の高齢者が誤って進入してしまうというケースを想像するかもしれないが、国土交通省の調査からは、進入した人の50%は40代以下で、特に20代の若者が多いという実態がわかっている。


国土交通省「高速道路への歩行者・自転車等の進入発生状況」より

ドライバーは、これら「想定外」の歩行者のことも常に予見しておかなければならないのだろうか。交通事故の対応に注力する鈴木淳志弁護士に、一般道とは異なる高速道路上の事故について聞いた。

高速道路はあくまでも「自動車専用道路」

高速道路上は、人や自転車が通っているということは想定されていないはずです。高速道路上で、車対人・車対自転車などの事故があった場合も、やはり車の過失が一番大きいのでしょうか?

鈴木弁護士:捜査の結果次第だとは思いますが、高速道路は「自動車専用道路」であり、歩行者が入ってはいけないところなので、運転手側の予見可能性は下がると思います。民事の損害賠償では、むしろ歩行者側の方が過失が大きいものとして扱われ、過失相殺がなされます。

刑事事件としての処罰はされますか?

鈴木弁護士:お相手が亡くなってしまった場合は、人身事故ですから、刑事事件として扱われます。しかし、やはり運転手の「過失」があったとは言いにくく、処罰されないか、仮に処罰が求められたとしても軽い処罰に傾く事象ではあるかなと思います。

先月、東名高速で起きた事故では、被害者が高速道路上で自殺を図った可能性があると一部で報道されました。それを受けて多くのドライバーから不安の声があがりました。相手の自殺の意図が認められれば、処罰されない可能性はあるのでしょうか?

鈴木弁護士:遺書が残されている場合など、明確に自殺と判断されれば、本人の意思になるため、運転手に過失はないという方向になり、刑事事件として処罰される可能性は低いのではないかと思います。

一方で、事故報道の空撮などに、「加害者」が運転していたトラック車体の企業名が映りこんでいたことから、企業へのクレーム電話が多くあったという情報もあります。SNS等の発達により、加害者側が交通事故の「犯人」として攻撃の的になってしまうことが増えたと感じます。事故の情報を受け止める際に、視聴者が気を付けるべきことはありますか?

鈴木弁護士:断片的な情報だけで、「加害者」と決めつけて批判を拡散する、企業に電話をかけるというのは、場合によっては名誉毀損や業務妨害にあたる可能性があるので、慎重にしてほしいなと思います。

特に企業への電話は、「意見」を伝える分には問題ないと思いますが、意見の範囲を超えて怒鳴るとか、ずっと電話をかけ続けるだとか、そういうことをすると「業務の妨げになった」と判断される可能性がありますので注意が必要です。

高速道路上で歩行者の立ち入りを発見した場合

NEXCO東日本では、ドライバーに向けて、万が一、高速道路上で歩行者を発見した場合の緊急通報を呼びかけている。


NEXCO東日本「高速道路等への人の立入はできません!

高速道路であっても、もしかしたら歩行者がいる「かも」しれないと心に留めて、安全運転を心がけてほしい。