皆さんは、“和菓子”と聞いてどんな印象を持たれますか?

「練り切りってかわいいよね」「私は、餡子がちょっと苦手」「地元にある行きつけの和菓子屋があってさ」、「最近全然食べていないな」などなど、色々な印象があると思います。

今回はそんな和菓子のイメージを払拭するべく立ち上がった若き和菓子アーティスト、寿里さんと彼女のお店『かんたんなゆめ』について紹介します。チーズやフルーツを使った洋菓子のような和菓子から、お酒に合わせて嗜む新しいスタイルまで、『かんたんなゆめ 日本橋別邸』ならではの至福の空間。そのルーツを探っていきます。

繁華街の渦中にある憩いの世界。閉店までの残り3か月。噛みしめながら味わうユメセカイ

心身ともに尽くして開いたお店なら、だれもが“この場所で永く愛されるお店にしようと”考えるのが常。しかし『かんたんなゆめ日本別邸』は、“始める前から終わりが定められた和菓子店”としてオープンしました。

日本橋室町小路の一角、目印はお店の名前が綴られたネオンライトのみ。知る人ぞ知るといった感じで一見では気が付かないような場所ですが、寿里さんの作る和菓子を求めて日夜人が途切れることはありません。

再開発で取り壊しが決まっているビルの3階に、2年間限定でオープンした『かんたんなゆめ日本別邸』。寿里さんと新たな和菓子が私たちを静かに待ってくれています。

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誰もが足を運んでくれる和菓子屋を目指して。世代の垣根を超えた『かんたんなゆめ日本別邸』の和菓子は安らぐための特効薬

和菓子の世界というと老舗和菓子屋がその界隈に鎮座。町の和菓子屋さんでも家系で代々受け継がれる、選ばれし者の世界といった印象があります。そんな中で『かんたんなゆめ日本別邸』はまったくの別次元。それはひとえに、この場所が2年間という確約付きだからではありません。そこには寿里さんならではの“魅せ方”があります。

寿里さん「私、前職は会社員だったんです。元々料理やお菓子作りが好きでパティシエ科がある高校に通って製菓衛生師の資格を取りました。そこで練り切りの美しさや儚さに惹かれ興味を持ちましたが、和菓子屋に就職することなく。当時の私は西日本エリアを中心にカフェの店舗立ち上げをしていました。

京都では色々な和菓子屋さんが身近にあって“今の季節は何があるのかな?”と日々ワクワクしていました。いざ、東京に異動となったとき、それまで当たり前にあった和菓子屋が探さなければ見つからない存在になったんです。

特に練り切りは日持ちがしない為、受注生産のみや店頭販売を控えるお店が多い印象で。そこで“そっか、好きなだけじゃなくなるんだ”と知りました。こんなに繊細で心を豊かにしてくれる和菓子の存在をもっと身近に感じてほしい。だから自分が作ろうって」

そう決意して目指したのは、和菓子を普段使いしたことがない人にも届く和菓子屋さん。しかし、カフェを立ち上げてきた経験から見えてきたのは、和菓子屋と現代人の生活の間にあるギャップです。

寿里さん「例えば、若い女性がランチの後にお茶をしようと思ってもテイクアウトのみの和菓子屋は候補にあがりづらい。朝早くから夕方までの営業で、日曜日が定休日となると働く人の多い街の和菓子屋は、東京人にとって立ち寄りづらいのではないかと思ったんです。

日本橋は会社が多く立ち並ぶエリアでもあるので、平日は仕事終わりに立ち寄れるよるバータイムに、土日はカフェ利用ができる日中の営業にしました。

お陰様で一人の方や、友人や両親を連れてくる方、お子様の和菓子デビューにと。5歳〜上は70代くらいの方まで幅広い世代に足をお運びいただいてます。」

例えば、パソコンで作業している時にコーヒーやクッキーではなく練り切りとお抹茶が目の前にあったら。少しの時間手を止めてお菓子を見て味わってから作業を再開するんじゃないか。そんな束の間の“一服”を味わえる力が和菓子にはあると寿里さんは語ります。

テレワークが一般化した現代で、作業場と化したカフェが多い中『かんたんなゆめ 日本別邸』で感じるのは、この雰囲気に浸っていたいという感覚。安らぎを求める多くの現代人にとって憩いの場となる理由こそ上生菓子の持つ力なのかもしれません。