さまざまなパーツを究極のバランスで構築。新たな息吹をみせるフランス菓子『ヴァシュラン』

クラシックなスイーツを題材に、新たな息吹を生み出すクリエイティブ力が試されるフランス菓子の世界では、発想力とそれを実現させる技術がベースになります。

『BASCULE(バスキュール)』のショーケースを見た瞬間に誰もが目を止める『ヴァシュラン』はまさにそんなスイーツ。

真っ白なボディにイチジクの紅色が光ります。焼いたメレンゲをお皿代わりにさまざまなパーツを組み合わせる『ヴァシュラン』。究極のバランス感覚が必要で、本来、作ってすぐに提供できるデセール形が基本です。

佐藤シェフ「『ヴァシュラン』って湿気たり手作業が多いから扱いづらいでしょう?だから、直ぐそこの厨房で作って売れる個人店ならではの強みだと思ったんです。

『ヴァシュラン』は寒気が近づいてきた9月からイチジクにリアレンジしたもの。メレンゲの器の中には赤ワインでコンポートしたイチジクと、パンナコッタが入っています。

メレンゲのように白いお菓子は淡白になりやすい。だからフロマージュ・ブランとクリームドゥーブルを合わせた、クリームダンジュで爽やかな酸味とコクを加えました。

トップにたっぷりとかけた、フランボワーズを赤ワインで煮詰めたソースがアクセントです」

食べると、フランボワーズの酸味が前奏となってフロマージュ・ブランのほのかな酸味と同調します。赤ワインで煮たイチジクが艶やかな味わいを引き出し主旋律に。メレンゲの小粋な食感と、ほのかに鼻腔から抜けるスパイスの味わいが副旋律へと発展。

フレッシュの場合と、ひと手間加えたイチジクの両方を楽しみつつ、微量のホワイトチョコレートによってスイーツらしい甘さも楽しむことができます。その強弱の計らいはまるでクラシック音楽のようです。

12月には新たな『ヴァシュラン』を試作するそう。次はどんな姿になるのか楽しみです。

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下積み時代を乗り越えたから。人に、経験に、支えられたオープンまでの道のり

自分を“職人気質が強く、積極的に前に出るタイプじゃない”と分析する佐藤シェフ。『ヴァシュラン』をプチガトーにアレンジするという着眼点もそんな職人気質が功を奏して商品化に至りました。そのきっかけとなったのは『パリセヴェイユ』の金子シェフから借りていた道具だったそう。

佐藤シェフ「金子さんから借りていたドーム型に種を絞ったら、意外に綺麗だなって。それで『ヴァシュラン』をガトーにできると思った。見た目もかわいらしいし、ショーケースに並べても全体に手作り感が出て美味しそうでしょう?

僕は試行錯誤して“技を見つけたい”タイプ。ここに並ぶガトーの数々はどれもそうしてできたものですよ」

約30年というパティシエ人生のどの瞬間を切り抜いても素晴らしい佐藤シェフの経歴。中でも19年間、心身ともに入魂し続けた『パリセヴェイユ』の金子シェフとの間には、仕事仲間を超える厚い信頼関係を感じます。

そんな信頼関係は時に、カタチをもってやってきます。佐藤シェフにとってのそれは『BASCULE(バスキュール)』で一緒に働くチームでした。

佐藤シェフ「金子さん、僕がお店を持つって言ったとき凄く渋い顔をして。笑

“僕の後を継げばいいじゃないか”とまで言ってくれた。それでも、物件が見つかったと報告をするとめいいっぱい助けてくれました。自分の店も忙しいのに『パリセヴェイユ』のスタッフを長らく派遣してくれて。

『パリセヴェイユ』だからこそ出来た経験というのは僕にとって何よりの財産。金子さんとの仕事には満足感と充実感ばかりでした。下積みも早々に自分の店を持っていたら絶対あんな経験はできなかったでしょうね」

いまは若手が続々と自分のお店やブランドを立ち上げる時代。しかし、仕事の価値観を形成する若手の間に独立することはもったいないと佐藤シェフは語ります。

現在でも常に金子シェフとは連絡を取り合っているという佐藤シェフ。

オープン前後、手伝いに来てくれた『パリセヴェイユ』のメンバー、そして現在、共に切磋琢磨している3人。クオリティの高いガトーの数々を日々作り続けられるのも、こうしたチームのパワーとご縁があるからこそです。