世界最悪の地下鉄を変えたスゴい日本人、宇田川信学さんをご存じ?【NY通信】

ブルックリン在住の日本人イラストレーターMAIKO SEMBOKUYAが、ニューヨークで見つけた人、モノ、コトについてイラストとともにつづるこの連載。昨年12月に記録的な大寒波が襲ったニューヨークからお届けするのは、デザインでニューヨークを変えた一人の日本人、宇田川信学さんについて。

昨年12月の終わりに大寒波到来、からの気温の上昇……。ニューヨークは予測のつかない気候にふり回されています。私の住むブルックリンは、最近は「耐えられないほど寒い!」という日もなく、雪もまだ降らず、平穏な日々が続いています。

ここ何年間かは、大雪が数日続く冬を経験していません。今年はいったいどうなるのかしら。雪を迷惑に感じる人が多いと思いますが、自宅にいることが多い私にとっては、雪降るニューヨークを窓から眺めるのはとても好きです。

人も車もウソのように消えて静まり返り、いつもとは全く違う景色に。今年もニューヨークの冬を感じられるような、少しばかりの雪は期待したいです。

今回は、そんなニューヨークで長年活躍されているある日本人についてご紹介したいと思います。

「危険・汚い」が代名詞だったニューヨークの地下鉄

ニューヨークにおける鉄道やバスなどの公共輸送を運営しているニューヨーク交通公社(MTA)に、ひとりの日本人が大きくかかわっていることをご存じですか?

その日本人とは、インダストリアル・デザイナーの宇田川信学(うだがわ・まさみち)さん。東京で生まれ、千葉大学工業意匠学科を卒業された後、ヤマハデザイン研究所やエミリオ・アンバース デザイングループ、アップル社などと名だたる大手企業に勤務。その後、イェール大学術大学院などで教鞭をとる傍ら、1997年にパートナーとともにデザイン事務所「Antenna」を設立されました。

彼がデザインした地下鉄の車両が、ニューヨークを初めて走り出したのが2000年。将来的には、ニューヨークを走る6000台すべての地下鉄車両が、宇田川さんのデザインになるそうです。

宇田川さんのデザインによって、それまでの「危険で、汚く、世界最悪」と言われていたニューヨークの地下鉄のイメージが一変。車内は明るく、とても居心地のいいものに。防犯のための工夫が施され、実際にそれからは犯罪率が減少したといいます。


「電車内は危険だから人と目を合わせてはいけない」と言われていた頃のニューヨークの地下鉄

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犯罪が減った地下鉄車両の新デザインとは?

白を基調とした樹脂素材の壁は掃除がしやすく、仮に落書きなどされても汚れを目立たせないようになっています。また、ドア近くの座席に斜めに設置されたバーは、暴力やひったくりから守る工夫がされています。


宇田川さんがデザインする以前の古い電車の様子。まだ、こちらも少し走っています。


宇田川さんがデザインした電車の車両内の様子

さらに、新車両には遅延を改善するための工夫が導入。走行中に次の駅で開くドアをライトでお知らせします。それによって、次に降りる乗車客が降車準備をするため、停車時間を短縮できるそう。多様な人が集まるニューヨークですので、光でお知らせするならば誰でもわかりやすいですよね。

宇田川さんが初めてニューヨークの公共物をデザインしたのは、1999年に設置された地下鉄の券売機。ニューヨーカーにはおなじみになっていますが、残念ながらシステムの移行によって、今年いっぱいで24年間の活躍を終え撤去される予定です。


見慣れた地下鉄の券売機。今年いっぱいなんて名残惜しい!

設置当時のニューヨーカーには、自動販売機の利用に抵抗がありました。「お金を入れてから商品を選ぶ」というシステムに、「お金がとられるのではないか」というイメージがあったといいます。そこで、宇田川さんはこんな工夫を。

購入方法を、必要な乗車券を選んでから最後にお金を支払う、というショッピングスタイルに。画面の表示がシンプルでわかりやすいというのもポイントです。また、仮にイタズラや八つ当たりに遭っても、大きなダメージを受けにくく、掃除をしやすい素材を使っているそうです。