「アイウエアは自分を表現するポジティブなツール」。パリのデザイナー・アーレムが教えてくれたこと

2013年のローンチ以来、世界中の眼鏡好きに愛されているパリ発の眼鏡ブランド『AHLEM(アーレム)』。デザイナーのアーレム・マナイ・プラット氏は、眼鏡をポジティブなファッションツールとして捉えたデザインセンスだけでなく、自由でおおらかなライフスタイルも注目されている。親日家もあり、展示会で3年ぶりに来日した彼女に、ファッションや女性の生き方について話を伺った。

6年ぶりに戻ったパリで、その魅力と本質を再発見

ジャーナリストを経て『MIUMIU(ミュウミュウ)』などのアパレルブランドのバイヤーを経験し、モードなデザインと機能性を兼ね備えた眼鏡ブランド『AHLEM(アーレム)』を立ち上げたデザイナーのアーレム氏はフランス生まれフランス育ち。ブランドを立ち上げてまもなくロサンゼルスに転居していたが、昨年6年ぶりに帰国。現在はパリを拠点に活動している。

「昨年まで6年間LAで暮らしていたのですが、パリに戻って、改めてパリの魅力や本質に気づくことができました。70年代後半のパリのエッセンス、政治、アート、映画で活躍したパワフルで象徴的な人たちや、女性たち。パリに戻って最初のコレクションでは、パリの魅力の礎のようなものをデザインで表現したいと思いました」

「LAはリラックスした空気が漂う寛げる場所。コロナ前は様々な場所に旅に出かけ、旅先でデザインのインスピレーションを得ていました。パリは、そこにいるだけでエネルギーを感じ、様々なひらめきが生まれイメージが湧いてくる場所。自分ではあまり意識していないのですが、帰国してからデザインするものが少し変わってきたかもしれません」

展示会でも注目を集めたのは、パリのガリレア美術館とのコラボレーションモデル。どこかレトロで強さのあるフレームデザインは、美術館の建築からもインスピレーションを受けたと言う。

「少し前にガリエラ美術館で『ヴォーグ・パリ誌100年展」という、1920年から2020年のモードファッションをビジュアルでたどる回顧展があったんです。その展示が素晴らしくて、デザインのイメージソースになりました。ガリエラ美術館は昔から知っている場所でしたが、改めて訪れてみると建築も素晴らしく、刺激されました。

太めのセルフレームでは力強さやパワフルさ、メタルのラインでは、繊細さを表現しています。どちらも一見個性が強くかけるのが難しそうに見えるかもしれませんが、かけてみると意外とどなたにもなじむデザインです。イメージしたのは、男性のスーツをかっこよく着こなし始めた70年代の女性。女性でも男性でも、身につける方の個性を引き立てるユニセックスなデザインにこだわりました」


ガリエラ美術館のコラボレーションモデルを着用したアーレム氏。フランス生まれフランス育ち、1981年生まれの41歳。

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老眼鏡が必要になったら、魅力を引き出す美しいものを

「実は私は目が悪くないので眼鏡は必要ないのですが、アイウエアは自分に自信を持つために欠かせないツールのひとつ。気に入っている仕立ての良いスーツやセーターを着ていると、洋服が自信を持たせてくれることで、自分が解放されるような感覚があります。メイクアップにも似ていて、隠すため、よろいをまとうためのものではなく、自分をよりオープンにするためのアイテムなんです。少し前に大勢の方の前でスピーチをする機会がありましたが、お気に入りの眼鏡をかけていると、自信を持って大勢の方の前に立つことができます」

日本でもファッションアイテムとしてのアイウエアは支持されているものの、40代、50代で「老眼鏡」としてのアイウエアが必須になる世代にとっては、ポジティブなおしゃれツールという捉え方が難しい側面もある。

「パリでは、年齢を重ねることにネガティブなイメージはありません。今の50代、60代はアクティブだし気持ちも若い。少し前の同世代とは感覚が全然違いますよね。老眼鏡を、ドラッグストアやコンビニエンスストアで手軽に買うのも選択肢のひとつだと思いますが、かけることでその人自身の魅力が増すような美しいものを選んでいただきたいし、提供したい。アイウエアは、性別や年齢を超えて自由に楽しめるファッションアイテム。ですのでポジティブに楽しんでいただきたいです」

text: Eriko Azuma