ビリギャルのその後──ただいま、34歳でアメリカ名門大学院に留学中〔前〕

金髪にミニスカの高2のギャルは、全国模試の偏差値30。勉強には見向きもせず学校でも問題児だった“ビリギャル”が、塾の先生との出会いがきっかけで猛勉強の末、慶應義塾大学に現役合格を果たす──。こんな実話が書籍となって大ヒット、有村架純主演で映画化もされたことで、一躍有名になったのが、この話のモデルとなった小林さやかさんだ。
奇跡的な大学現役合格ストーリーを生み出した彼女はその後、どのような人生を歩んでいるのか。取材を申し込んだところ、なんと今、ニューヨークに暮らし、コロンビア大学の大学院に通っているという。34歳で初の海外留学、しかもアメリカ最難関校に挑戦となると、受験勉強は? 仕事は? 結婚は……??? 大学入学後の10代後半から34歳のいまに至るまでの道のりを語ったインタビューを、3回にわたってお届けする。

2022年7月からニューヨークで暮らし始めて、6ヵ月が過ぎました。私はいま、ここニューヨークにあるコロンビア大学教育大学院(Teachers College,Columbia University)で、教育における認知科学(Cognitive Science in Education)という分野を学んでいます。

ちなみに私はこれまで一度も海外留学を経験したことはありません。それなのに34歳になって初めて日本を飛び出して、母国語でもなく、得意でもない英語で、教育の専門的学問に挑むことになった。そこに至るまでには、高校時代“ビリギャル”だった私が猛勉強の末に慶應大学に入り、その後社会人となって過ごした十数年間のさまざまな出会いや挑戦、挫折や気づきがありました。

そんな私の経験をまとめた書籍が22年11月に出た『ビリギャルが、またビリになった日 勉強が大嫌いだった私が、34歳で米国名門大学院に行くまで』(講談社)です。

憧れの慶應では“ダメ大学生”

私が高校時代通っていた塾の講師の坪田信貴先生が、私の受験の顛末をつづった書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40 上げて慶應大学に現役合格した話』=“ビリギャル”を出して、ベストセラーになったのが2014年。有村架純さんが主役を演じた映画も大ヒットしたので、ビリギャルが 慶應大学に合格したところまではご存じの方も多いと思います。


高校時代の小林さん(写真提供・小林さん)

その後の私がどんな大学生になったかというと……勉強はほとんどせず、学校の授業は単位の取りやすいものを履修、もっぱらサークル活動やらアルバイトやら遊びやらにいそしんでいました。なにせ慶應に行きたいと思ったのは「嵐の櫻井翔くんが行っていた大学だから」というもので、慶應に行ってなにかをやりたいという目的があったわけではなかったんですよね。

というわけで、ビリギャルのストーリーには絵に描いたような「ダメ大学生になった」という続きがあったわけなんですが(笑)、坪田先生からは「大学に行って東京に出て、たくさんの人と出会っておいで」と言われていたので、その言葉を前向きに受け取って、たくさんの人に出会い、さまざまな経験を積んでいきました。

なかでも大学を卒業するまで2年半続けた居酒屋でのアルバイトは、サービス業のすばらしさを知る大きなきっかけとなりました。とても人気のあるお店で、2時間待ちの行列が連日できていても、繰り返し通ってくれるお客様がたくさんいて。スタッフはお客様を心から喜んで迎え、お客様の誕生日や記念日はもちろん、ときにはスタッフのお祝いごとも、お店にいるお客様含め全員で喜び祝福したりしていたんです。

そんな様子を見ていて、お客様は食事をしにきているというよりも、ここのスタッフに会いにきているんだなと気づきました。こんなに楽しそうに働いている人たちも、こんなに人を幸せにできる空間も見たことがなくて、私もいつか、こんなふうにだれかをたくさん笑わせてあげる空間を作りたいと考えるようになりました。

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就活開始。商社やマスコミにエントリーしてみた

それで、就職活動ではサービス業に絞り、もっとも人を幸せにできるサービス業はなんだろうと考えて、ウェディング会社に就職することにしました。ただ、最初からサービス業に決めていたわけではなく、同級生の多くは銀行や商社、広告代理店、マスコミなどを目指していたので、私も活動を始めたころはそういう業界にエントリーシートを出したりしたり、OB訪問をしたりしていました。


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でもなにか違う、なにかしっくりこない。
会社の名前とか給与とか福利厚生とかで選ぶ人もいたのですが、私はそういうところにはまったく興味が持てなかったです。これは人と違う視点で選ばないと入社してからつらそうだということに途中で気づき、そこから軌道修正しました。

そこでやったのが自己分析です。私はどんな性格なのか、何をしているときが楽しいのか、どんな人生を送りたいのかということを、いろいろな人に聞いたり自分でも書き出したりしていきました。

そのなかで、居酒屋のアルバイトになんであんなにハマったのだろうと思ったときに、「あぁ、『誰かを幸せにできる瞬間』を目の前で見られるからなんだ」ということに気づいたんです。たとえば広告代理店も商社も、誰かを幸せにするから存在していると思うのですが、「目の前で誰かを幸せにできる瞬間」を想像しにくかったんですね。

サービス業って目の前に人がいるからシンプル。ましてやウェディング会社でウェディングプランナーとして新郎新婦の結婚式をプランニングするっていうのは、私にもよくわかって、それはワクワクするわと思ったんです。