電車のバリア解消は駅員にとっても障害者にとっても良い
猪狩さんは地下鉄都営大江戸線に乗車。猪狩さんは大江戸線が大のお気に入りだという。
ホームと電車の間の隙間が解消されている車両に乗る猪狩さん
「都営大江戸線の4号車と5号車は、全駅でホームと電車の段差の隙間が解消されているんです。なので、駅員さんにスロープを持ってきてもらわなくても、1人で乗り降りできるので、私は大江戸線を愛しています(笑)」
今回、降りたのは大門駅。猪狩さんは初めて降車する駅だ。
大門駅で降りた猪狩さん
出口によってはバリアフリーになっておらず、車いすが通れないところもあるという
「車いすユーザーは駅の出口を全て利用できるわけじゃないんです。なので、初めて使う駅は緊張しますね。駅の仕様が分からない場合、事前にインターネットで駅の構内図を確認していくこともあります」
次はJR山手線に乗り換え。改札で何やら駅員と話している。
駅の改札で駅員から構内のバリアフリーについて案内を受ける猪狩さん
「駅員さんからは、こっちの改札には階段しかないから、迂回して別の改札口から入場するよう言われました。階段を使えば最短ルートでできる乗り換えが、車いすだと遠回りしてエレベーターを探さなければいけないということは結構多いですね」
猪狩さんは別の改札まで移動することに。その改札までの道はのぼり坂になっていた。
構内の上り坂を移動する猪狩さん
「ライブの後くらい疲れてます」と話す猪狩さん
なんとかバリアフリー対応の改札に到着。車いすユーザーにとって、電車の不便はこれ以外にもある。駅によってはホームドアがなく、通路は車いすの通れるギリギリの幅で、恐怖を感じることもあるそうだ。
駅内は車いすが通れるギリギリの道幅のところも
駅員に頼んでスロープを用意してもらう猪狩さん
「たまに車いすスペースがない車両に乗ると、ドア付近にいることしかできません。乗り降りする人からしたら、絶対に邪魔だろうなって思うんですよ。さっきの大江戸線みたいに、どこか1カ所でもいいから車いすユーザーが乗りやすい場所があれば、わざわざ駅員さんを呼ばなくてもいいし、駅員さんの仕事も減る。お互いにとって良くなるのに」
車いすスペースがない電車では、ドア付近にいることしかできない
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アイドルを続ける理由は「障害への偏見をなくしたいから」
ライブ会場に到着。猪狩さんは公演の準備を行う。
口付近に固定ができるヘッドセットマイクを着ける猪狩さん
他のメンバーのようにハンドマイクを持ってしまうと、車いすを動かせなくなるため、ヘッドセットマイクを装着。その他、ライブ会場には猪狩さん仕様のものがある。舞台へと続く階段は車いすでは利用できないため、猪狩さん用に作られたスロープのようなもの、通称「猪狩台」だ。
「舞台袖に階段が3段あるんですけど、いちいち車いすごと運んでもらっていると間に合わなくなってしまうので、スタッフさんに『さっと出られる何かほしいです』ってお願いしたら、作ってもらいました」
舞台へと続く階段は車いすでは通れないため、舞台袖にはスロープのようなものが設置されている
猪狩台から舞台に登場する猪狩さん
猪狩台を利用して舞台に登場する猪狩さん。この日は6曲を披露した。
ともに活動するメンバーは猪狩さんの事故についてどう思っているのか。仮面女子メンバーの森下舞桜(もりした・まお)さんはこう話す。
デビュー前から猪狩さんと交流があったという森下さん
「最初、車いすって聞いた時は信じられませんでした。ただ、いがちゃん(猪狩さんの通称)のリハビリとか努力で、今となっては車いすを感じさせないぐらい、一緒にステージをつくってくれて。すごく尊敬しています」
最後に披露した曲は「ファンファーレ☆」
この日のラストでは「ファンファーレ☆」という曲を披露。この曲は猪狩さんがけがをしてステージ復帰を目指していた時に、猪狩さん自身が作詞を行ったものだ。たくさんの人の応援や励ましの声があって、アイドル活動を続けられた感謝の気持ちを込めた歌詞だという。
「ファンファーレ☆」を歌う猪狩さん
・・・・
絶やさず 轟かせ ファンファーレ! 迷う時は振り返ればいいさ
ここまで歩んだ道が その証さ 君は持ってる ブレない強さを
歌おうぜ! 声高くファンファーレ! 何だってやれる 命がある限り
時には誰かの手 借りてもいいさ 掴みに行け 君だけの夢を
・・・・
最後に、猪狩さんがアイドル活動を続けている理由を聞いた。
「私が車いすに乗って仮面女子として活動することで、ちょっとでも障害に対しての偏見をなくしてほしい。壁をつくってしまう人に対して『車いすに乗っているからって特別な存在じゃない』って思ってほしい。障害のある人を別次元の人間と考えている人もいるかもしれないですけど、全然そんなことなんだよっていうのを表現していけたらって思います」
「私の活動で障害に対する社会の壁をなくしていけたら」と話す猪狩さん
車いすだからといって、アイドル活動ができないわけじゃない。猪狩さんのこの挑戦は、確実に誰かの心を動かして、障害に対する見方や考えを変えていることだろう。