「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展へ ~世界巡回展がついに東京で開幕~

東京都現代美術館で開催中の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展が話題を呼んでいる。パリを皮切りに、ロンドン、上海、ニューヨークなど、世界各地を巡回してきた壮大な回顧展。1,000点を超える貴重なアーカイブ作品とともに、「ディオール」と日本が育んできた深い絆を称える特別な展覧会の見どころを紹介。


ウィメンズ クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリによる春夏 2020 オートクチュール コレクションよりLOOK#220のドレス
photo: © Yuriko Takagi

ディオールと日本の特別な絆を紐解く

創設者クリスチャン・ディオールの先駆的なビジョンから始まった75年もの創造の軌跡と、メゾンに影響を与えた日本文化へのオマージュを掲げ、フロランス・ミュラーのキュレーションで再考案された「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展。会場はテーマ別に13の展示室で構成されている。


帽子やジュエリー、シューズ、ミニチュアドレスなどを、虹のように色別に展示した遊び心あふれるインスタレーション
photo: ©DAICI ANO


約1,000枚の「ディオール」のスカーフを使ったマダガスカル人アーティスト、ジョエル・アンドリアノメアリソアの作品が色彩と呼応
photo: ©DAICI ANO


メゾンを象徴する構築的なシルエットのドレスやテーラリングのトワルを壁一面にディスプレイ。高度なクチュールテクニックを堪能
photo: ©DAICI ANO

1947年に発表しファッション史に革命を起こした「ニュールック」を象徴する「バー」スーツに始まり、ムッシュ ディオールの情熱を引き継いだイヴ・サン=ローラン、マルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、マリア・グラツィア・キウリといった歴代のクリエイティブ ディレクターによるオートクチュールが一挙に展示され、メゾンの過去と現在を振り返るという壮大な内容だ。


「ディオールと日本」がテーマの展示室。『蝶々夫人』や桜など、日本文化にインスパイアされたオートクチュール作品がずらり
photo: ©DAICI ANO

最大の見どころのひとつは、メゾンと日本の特別な関係をひもとくセクションだ。日本に進出した初の西洋ファッションブランドとして、「ディオール」は1953年に鐘紡および大丸と契約を結び、同年に帝国ホテルでファッションショーを開催。その当時に発表された作品や、葛飾北斎の浮世絵をモチーフにしたジョン・ガリアーノによる作品、マリア・グラツィア・キウリ初の東京でのオートクチュールショーで披露した“ジャルダン ジャポネ”ドレスなどにスポットライトが当てられた。両者の間で交わされた手紙やスケッチ、日本各地で行われたショーの資料など、初公開となる貴重なアーカイブ資料も必見だ。


高木由利子が撮り下ろしたドラマティックな写真を背景に、歴代クリエイティブ ディレクターによる作品を時代ごとに紹介
photo: ©DAICI ANO


日本庭園をイメージした空間には、花々をモチーフにした優雅でロマンティックなイブニングドレスが集結
photo: ©DAICI ANO

会場の随所には、日本人写真家・高木由利子が本展のために撮り下ろした作品がちりばめられ、詩情豊かな日本の美意識を表現している。各展示室のテーマに合わせて厳選された、東京都現代美術館所蔵の美術作品も注目だ。日本庭園をイメージした空間では、柴田あゆみによる藤の花の切り絵が天井を覆い尽くすなど、圧巻のインスタレーションにも目を奪われる。

「ディオール」のクリエイションに影響を与えた日本文化とその関係性をひもとく本展。観るものを夢の世界へと誘う壮観な空間で、「ディオール」の伝統と歴史を体感したい。


グレース・ケリーやナタリー・ポートマンなど、世界的スターが纏ったドレスに焦点を当てた「ディオールのスターたちとJ’ADORE」の展示
photo: ©DAICI ANO


ギリシャからエジプト、インド、そして日本に至るまで、世界各国の文化にインスパイアされたクリエイションの旅がテーマの展示室
photo: ©DAICI ANO


現代アーティストとのコラボなどで再解釈された希少なアイコンバッグ「レディ ディオール」が壁や天井を覆い尽くす
photo: ©DAICI ANO

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各地の特殊性と掛け合わせて再考した革新的な空間

空間演出を手掛けたのは、国際的な建築設計事務所として知られるOMAのパートナーであり、ニューヨーク事務所の代表を務める建築家の重松象平だ。「パリを皮切りに、さまざまな都市の美術館で行ってきた空間デザインは、回顧展というフォーマットを各地の特殊性と掛け合わせながら再考し、展示会そのものを革新していくという刺激的なコラボレーションの連続でした」と重松は語る。

日本文化へのオマージュが表現された今回のデザインには、「ディオール」を象徴する構築的なドレスのシルエットや日本のランドスケープからの影響も見られる。さらに1階と地下2階をつなぐ吹き抜けの大空間では、夜会をテーマに、上階と下階双方からの視点を意識した壮観な演出が目玉だ。「展示室ごとに異なるストーリーが展開される中、舞台美術を意識してデザインしました。“未来を向いた”この回顧展が日本でどんな反応を得られるのか楽しみです」

空間デザイン: 重松象平(OMAパートナー)


photo: ©Yuto Kudo

建築家。1973年福岡県生まれ。1998年より建築、都市計画、文化分析に参画する国際的な建築設計事務所OMAに所属し、2006年にニューヨーク事務所代表、2008年にパートナーに就任。アメリカ大陸およびアジアのプロジェクト多数をリーダーとして牽引している。