ホームレス女性に「おごる」と誘いコンビニ“置き去り”の非情…  “炎上”TikTokerに問われる「罪」

1月中旬、愛知県名古屋市中区で路上生活をしている女性をSNSに投稿する動画の“ネタ”にして、再生数を稼いでいた若者らが“炎上”した。

動画はTikTokに投稿されたもので、撮影した若者らは路上生活をしている女性に食べ物を『おごる』として共にコンビニに入店するが、会計を前に若者は「美容室に行かなきゃ」などと言いながら女性の元を離れる。入り口から女性にカメラを向け、「ちょっと待って!」「行かないで!」と声を荒らげる女性の様子を撮影していた。

映っていた路上生活者の女性は、以前から多くの若者らの動画に登場していたいわば“TikTok界の有名人”。過去の動画の中には、今回の動画とは別の若者が女性に対し口に含んだ酒を吹きかけるといった明らかな加害行為もあった。これらがTwitterなどの他のSNSで拡散されたことで、「路上生活者に対するいやがらせ」「いじめ」だとして炎上した。

今回の動画についてTikTok上では、「面白い」「こういうの(動画)待ってた」と好意的なコメントが相次いだことも炎上に油をそそぐ形となった。

報道によれば、すでに区や警察にも通報が入っているというが、警察が“捜査”を始めていた場合、動画を投稿した若者らが罪に問われる可能性はあるのだろうか。

若者たちの行為、どんな罪に問われる?

刑事事件の対応が多い杉山大介弁護士は、「“逮捕”のためには、軽犯罪法ではなく刑法違反の犯罪捜査である必要はありますが、警察が『事件』として捜査をすれば、当然送検はされます」と話す。

その上で、動画などから判明している、若者たちの行為の“違法性”についてはどうなのか。

・食べ物を「おごる」と言いながら、実際には支払いをせず店に置いていく行為

「行為自体は直ちに犯罪とは言いにくいですが、コンビニや飲食店など場所を選ばず店に対して迷惑行為目的で立ち入っており、業務妨害や建造物侵入になる余地はあると思います」

・嫌がる相手につきまとい、撮影を続ける行為

「軽犯罪法1条28号などに抵触する可能性があり、一応犯罪に当たると思います。あとは肖像権侵害ですが、これは民事事件となり、被害者が訴訟するハードルは高いと思います」

・口に含んだ酒をいきなり吹きかける行為

「『不法な有形力の行使』ということで、間違いなく暴行罪にあたります」

・動画に対する賛辞のコメント

「この場合、動画に対してのコメントだけでは罪には問われません。侮辱罪なども、要件である『特定の誰かの社会的評価を下げる』とまでは言いにくいかと思います」

弁護士が望む新しい仕組みとは?

路上生活者に対して嫌がらせをしたり、回転ずし店で他人が注文した商品を食べたり、アルバイト先でつまみ食いをするなど、モラルを考えれば“ありえない”ことでも、それが“面白い”とばかりに動画を撮影し、投稿し炎上する若者たちが後を絶たない。

一方で、これら若者たちの軽率な投稿を通じて被害や損害を受けた個人や企業が、若者たちに刑事罰を望んだとしても、“犯罪行為”としての立証が難しい現状もある。

また、例え犯罪行為が認められ、刑罰が課されても「刑務所に入るなど重い処罰にまでは至りにくく、元々失うものも少ない相手に対する抑止力には限界がある」と杉山弁護士は説明する。

「だからこそ民事事件で、懲罰的損害賠償(※)のように、『被害者には大きな利益』、『加害者には大きな経済的損害』が生じる仕組みがあると望ましいと思います」(杉山弁護士)

(※)悪質性が高い加害行為の場合、将来の同様の行為を抑止する目的で、実際の損害を上回る賠償額を課すこと。アメリカやイギリスで採用されているが、日本では採用されていない。

“面白半分”がきっかけで深刻な事件に発展

動画の炎上ではないが、路上生活者をめぐる「嫌がらせ」が、深刻な事件に発展したケースもある。

2020年3月に、岐阜県で路上生活者の男性(当時81歳)が少年グループに襲撃され死亡した。グループのうち、傷害致死罪に問われた2名には実刑判決が下っている。

判決文によれば少年らは、「かねてから夜間遊び仲間と一緒に現場に行き、面白半分で被害者らに向けて投石するなどし、被害者らが追いかけてきたり投石してきたりすると逃げるなどして、そのスリルを楽しむことを繰り返していた」という。男性を死亡させた日も、逃げる男性をふたりで1キロ近くにわたって追跡し、石や土を投げ続けた。顔に土を浴びた男性が転倒したところへ、後頭部を路面に打ち付けさせる暴行を加え死亡させた。

岐阜地裁は少年らの犯行を「執ようで陰湿、卑劣」、“面白半分”という動機や経緯についても「誠に理不尽で厳しい非難に値する」と断罪。判決はふたりが事件当時少年だったことも加味されたが、それぞれ懲役5年と4年の実刑となった。

誰かの権利や安全を脅かす“面白さ”など通用しないと肝に銘じてほしいものだ。