「抱いちゃおうかな」セクハラ放題&人格否定の報復… “ダブルハラスメント”上司に裁判所が命じた「賠償額」

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

今日も全国津々浦々でセクハラやパワハラが横行しています。最近では、元自衛隊の女性が上官からセクハラされたことを世間に訴えた事件もありましたね。この女性は近々、加害者と国を相手取って民事訴訟を提起するようです。

今回、過去の裁判をひとつ取り上げて、対処法などを解説します。お届けするのは、セクハラ&パワハラのダブルハラスメント裁判です。

事件の概要は、上司が部下の女性の胸を触ったり、「今日は●●を抱いちゃおうかな」とセクハラLINEを送ったというもの。さらにその後、女性が社内の人に相談すると、上司がヘソを曲げて報復パワハラを始めた事件です(人材派遣業A社ほか事件:札幌地裁 R3. 6.23)。

どんな事件か

会社は人材派遣業などを行っていました。Xさんは被害当時おそらく38歳です。とてつもなく仕事ができる方だったと思います。アルバイトからスタートして約4年で支店長に就任していますから。他方、セクハラ上司は専務取締役。代表者に次ぐNo.2の実力者でした。コイツがXさんの直属の上司となってしまいました。

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▼ スナックでの出来事
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本社に出張した時のことです。研修終了後、居酒屋で飲み会が開催され10名程度が参加しました。二次会でスナックに流れ、そこでセクハラ発生です。

上司はXさんの隣に座りました。そしてXさんに向かって以下の発言を。

「ホテルはどこ?」
「ホテルに遊びに行っていいか」
「ホテルに行っちゃおうかな」
「今日は●●(Xさん)を抱いちゃおうかな」

と繰り返し発言しました。

Xさんは「キモ!」と思ったようですが、一応上司ですので関係が悪化することを恐れて、明確に拒否はしませんでした。相手は社内No.2のオッサンですもんね。はにかむくらいしかできないですよね。

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▼キモいLINEが襲来
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お開きした後、なんと夜3時前ですよ。キモい敵機襲来です。上司から「ホテルに遊びに行きたいのです」とLINEが送られてきました。Xさんが返信しないでいると、さらに「おーい」「いくぞ〜」と送られてきました。さらに、2回電話がかかってきました。もちろん、Xさんは取りませんでした。

裁判での上司の供述によると、上司はXさんと仲が良いと思い込んでいて、こういうLINEを送っても許されると考えていました。俺に気があるかも!っていうヤツかもしれませんね。ドンマイ。

裁判所で上司は反論しました。判決文を会話に変換します。

上司
 「これは冗談で送信しただけですよ!」

裁判官
 「いや。このLINEは、あわよくばXさんと性的な関係を持ちたいというアナタの願望を示したものと見ることが相当である」

お見事。バッサリ切られております。

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▼カラオケでの出来事
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お次はカラオケで起きたセクハラです。飲み会の2次会、複数人でカラオケに行きました。上司はXさんの右隣に座りました。コイツはいつも隣に来ますね。

上司はXさんの手を握りました。

上司
 「私の右隣には誰も座っていなかったです。手を握ったら他の社員が気づくはずでしょ!」

裁判官
 「あなたは証拠がある事実以外は認めないという供述態度ばかりか、不合理な弁解を述べて自身のセクハラを全面的に否定するものである。あなたの主張よりも、Xさんの主張を信用します」

裁判官はメチャ怒ってますね。

■アドバイス
今回、裁判官はXさんの言い分を信用してくれましたが、常に女性の言い分を認めてくれるとは限りません。どっちが信用できるかな〜という【天秤を傾けるゲーム】になっちゃうと負ける可能性があります。

なので録音しましょう。録音は最強です。セクハラ野郎と飲みに行くときは録音状態で挑みましょう。手を握られたら「あの…ちょっと手は…」と言って収録しておけば、裁判官が「ムムッ!手を触っておるな!キショ!」とセクハラ認定してくれる可能性が高まります。

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▼ 2人きりになるとガオーッ!
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これまた出張先での出来事です。他の取締役も参加し合計4名で会食をしていました。取締役がトイレに行くため席を外したら、ヤツが動きました。

以下のセクハラを。
・Xさんに抱きつく
・キス
・胸を“わしづかみ”にするように触る

Xさんはさすがに抵抗したんですが上司はやめませんでした。取締役がトイレから戻ってきた姿を見て、やっとXさんから離れました。

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▼他のLINE
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以上が裁判所で認定されたセクハラなんですが、他にも以下のキショいことをしていました。

スタンプ攻撃
中年男女が体で「ラブ」とハート型を作ってるもの
中年男性が電柱の陰からじーっと見つめるもの
投げキッス

「もう少し話をしたかったね!帰ったかな・・・」
何の前触れもなく
「可愛いね💗」「会わない?」「会いたい」
深夜1時ころに
「1人ぶらり旅」というメッセージとともに自分の写真を加工したものを送信。

最後のやつはFacebookおじさん丸出しです。「知らねーよ、勝手に行っとけよ」ってヤツですね。

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▼他の従業員に相談
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Xさんは耐えきれなくなったのでしょう。セクハラされたことを部下3名などに相談しました。これが上司の耳に入ったようなんです。クッソー他の人に相談しやがって! と思ったようで、そこからパワハラが始まりました。態度を一変させています。

パワハラ

裁判所は以下の3つのパワハラを認定しました。

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▼強い叱責
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Xさんが作成した人事考課表をみて「1を付けた管理者なんて今まで見たことがない」と強く叱責。

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▼会議で
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「この数字は支店長としてどう思っているのか」
「こんなマネージメントは 聞いたことがない」
などと発言して、公開の場でXさんの支店長としての資質をおとしめた。

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▼人格否定
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改善点の指導を求めるXさんに対し「自分が一番正しいと思っている」などという人格否定につながる発言。

これらの発言について裁判所は「必要かつ相当な範囲を逸脱しており、直属の上司としての立場を利用したハラスメントと評価できる」と認定しました。

認められた金額

裁判所が認めた損害賠償額は以下のとおりです。

治療費 約3万円
慰謝料 150万円
弁護士費用 約15万円

上司だけでなく会社にも命じています。ザックリ言うと「Xさんが助けを求めたのに十分な対応をしなかった」 ということで、使用者責任・安全配慮義務違反が認定されました。

詳細は割愛しますが給料の請求も認められています(休職してた間の1年3か月分)。ザックリ言うと「上司のハラスメントが原因で休職してるでしょ」ってことです。

最後に

■診断書は大事
診断書はとっておきましょう。Xさんは上司のセクハラとパワハラを受けたあと抑うつ状態になっていました。慰謝料が3ケタに乗った理由は、ハラスメントと症状との間に因果関係が認められたからです。因果関係ナシ!と判断されると2ケタ前半にとどまってしまうことも多いです。因果関係を立証するためには診断書が重要なので、不調を感じた時には通院しておきましょう。

■会社が何もしてくれなかった場合
ハラスメントされていることを会社に相談しても「まぁまぁまぁ」と対応してくれないことがあります。そんな時は労働局雇用均等室に申し入れましょう。会社が不誠実な対応をとったことの証拠も残しておきましょう。メールや会話などの録音で。あとで戦う時に生きてきます。

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▼本日の教訓
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「この子、オレに気があるかも!」は149%勘違い。

またお会いしましょう!

【筆者プロフィール】
林 孝匡(はやし たかまさ)
【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。コンテンツ作成が専門の弁護士です。
HP:https://hayashi-jurist.jp Twitter:https://twitter.com/hayashitakamas1