学生時代に国民年金の納付猶予を受け、年金保険料の未納期間があることを気にしている人はいませんか?中には追納するより投資をして自分で増やした方が良いのでは、と考える人もいるでしょう。今回は、年金保険料の追納をする場合と、その資金を投資に回す場合の比較をしていきます。

年金保険料の免除と追納制度とは

追納について触れる前に、そもそも年金の免除とはどのようなものか内容を押さえておく必要があります。年金の簡単な仕組みと合わせて確認していきましょう。

国民年金は20~60歳まで加入義務がある公的年金制度です。現在(令和4年度)の年金保険料は、月額1万6590円。物価や賃金の変化を基に、毎年度見直されます。会社員は、勤め先から給与天引きで厚生年金保険料が差し引かれ、その中に国民年金分が含まれるので、あまり気にしなくても自然と納付する仕組みができています。

しかし、自営業やフリーター等の場合は、自分で国民年金を納めなければなりません。保険料は収入に関係なく月額1万6590円なので、収入が減少したり、急に職を失ったりした人などは支払いが困難になります。そんな時に申請できるのが免除等の制度です。

この制度は、正確には「保険料免除制度」「保険料納付猶予制度」というように免除・猶予の2種類あり、申請者の状況によって適用されるものが異なります。

前者の「保険料免除制度」は、前年の所得によって全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除が受けられるというものです。ここで言う所得とは、「本人と配偶者」の前年の所得(1~6月までに申請する場合は前々年の所得、以下同様)だけでなく、親と同居しているなどで他に世帯主がいる場合は「世帯主」の所得も関係します。

そして後者の「保険料納付猶予制度」は、50歳未満の人で、「本人と配偶者」の前年所得が一定以下であれば申請できるため、前者より要件が緩やかです。学生は、この猶予制度の特例として、「学生納付特例制度」が適用されるようになっており「本人のみ」の所得要件で良いとされています。

実のところ、「免除」「猶予」の違いは、将来の年金に大きく影響します。
年金は10年以上加入しなければ1円も受け取れません。しかし免除・猶予期間はどちらも加入期間としてカウントされるので、その点は何の違いもありません。大きく異なるのは、将来の年金額への影響です。

そもそも国民年金は、国民年金保険料として納付者が2分の1を負担し、残り2分の1は国から補てんされて成り立っています。つまり、全額免除を受けて国民年金保険料を支払わなかった場合でも、国の補てん分となる2分の1の年金は将来の年金(老齢基礎年金)として受け取れます。しかし猶予の場合、年金額への反映はないため、猶予を受けている間の年金は受け取ることができません。

つまり、猶予となる学生納付特例制度を利用した学生は、免除を受けている人以上に追納について関心を持った方が良いということです。免除・猶予は、10年まで遡って支払えるので検討してみてください。

(広告の後にも続きます)

学生時に年金免除期間が3年あった場合のシミュレーション


金額差を計算する
【画像出典元】「stock.adobe.com/Kittiphan」

まず気になるのは、学生納付特例制度の利用者が追納をするといくら年金が増えるのかではないでしょうか。早速年金額の違いをシミュレーションしていきましょう。

なお、追納時の年金保険料は、便宜的に令和4年度の保険料で計算します。実際は、免除・猶予を受けた時の年金保険料となること、また、免除・猶予から3年度目から加算金が上乗せされます。

(例)Aさん(30歳) 
学生納付特例制度/3年間・90歳まで年金を受給した場合
※令和4年度の保険料で計算

20~60歳の40年間国民年金を納めると、年間で77万7800円の年金(老齢基礎年金)が受け取れます。つまり、年金保険料を1年納めると、将来の年金は、

77万7800円÷40年=1万9400円(十円以下切捨て、以下同様)

つまり、1年あたり1万9400円の年金になります。よって、Aさんが学生納付特例を受けた3年分を追納すると、

1万9400円×3年=5万8200円

の年金がもらえるようになります。これが追納をしなかった場合と比較した、1年間の年金額の差となります。

生活費としてとらえるのもひとつですが、追納しなければ受け取れないものなので、追納をすることで毎年、国内旅行に行けるくらいの予算ができたと考えるのも良いかもしれません。老後の楽しみが増えます。

ちなみに、追納しなければならない3年分の保険料は下記です。

(年金保険料1万6590円)×12カ月×3年=59万7200円

さらに、もう一つうれしいことがあります。納めた年金保険料は、年末調整や確定申告で手続きすると所得控除の対象となり、その分、税負担が軽減されます。ここでは節税分も考慮し、実際の負担額を計算してみましょう。

税金の軽減分は、追納する人の収入によって違います。例えば、会社員で年収600万円の人なら、概算で11万9400円が軽減されます。(所得税10%、住民税10%で試算・計算過程は割愛)

つまり、実質の追納による負担は、
(追納分の保険料59万7200円)-(税金軽減分11万9400円)=47万7800円 

ということです。

ですので、納付額と受取額の損益分岐は、
(保険料の実質負担額47万7800円)÷(増額となる年金5万8200円)≒8.2年(約8年2カ月)

年金の受給開始は65歳ですから、追納した年金は8年2カ月後の73歳2カ月を超えて長生きすれば、納めた以上に年金が受け取れるということになります。

仮に、90歳まで(25年間)元気で年金を受け取れたとすると、年金の受取総額は、

(増額となる年金額5万8200円)×25年=145万5000円

支払保険料に対する損得は、
(年金受取総額145万5000円)÷(保険料の実質負担額47万7800円)=3.04倍

となり、支払額に対して3倍以上の年金が受け取れたことになります。

なお、計算過程での諸条件や制度改正だけでなく、将来会社員として60歳以降も働き厚生年金に加入するケースや、60歳時に国民年金に任意加入をするケースなども考えられます。先々どのような道を歩むのかによって一概に比較できない部分もありますので、その点ご容赦ください。