文・イラスト/ヨシムラマリ

※この記事は、横浜YAMATOのウェブサイトに掲載されたものを再掲載しました。

第3話「ウルトラハードプラチナ(UHP)の開発は苦難の連続」

 やわらかい金属であるプラチナの純度を最大限に高めながら高硬度にするという、無理難題ともいえる新素材の開発は、想像以上の苦難の連続であった。
 試行錯誤の末、プラチナに極めて微量のボロン(ホウ素)を混ぜ込むと、硬度が高まることがわかった。しかし、これが新たな難題を生むこととなる。
 ひとつは、ボロンは溶解が非常に難しいこと。もうひとつは、極微量のボロンを、どうすれば偏りなく均一に混ぜ込むことができるのか、という問題だった。
 ひとつ目の問題は、万年筆のペンポイントを製造するときにも使われる金属加工の技術を応用し、様々な工夫を重ねることで解決した。まさに、パイロットの歴史がなせる技だ。
 ふたつ目の問題は、999gのそば粉に1gの小麦粉を混ぜるような感じ、というとイメージが湧くだろうか。この比率では、どれだけかき混ぜても、小麦粉の粒子がある部分と、そうでない部分のムラができやすくなってしまうのだ。
 それを解決したのが、「パイ生地」作戦である。パイ生地にバターを練り込むときのように、材料を薄く延ばし、延ばしたものを折りたたむように重ねてまた延ばす、を何度も繰り返すことで、極微量のボロンをプラチナに均一に混ぜ込むことに成功。高純度でありながら、変形しにくい高硬度のプラチナ、UHPにたどり着いたのだ。

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プロフィール


ヨシムラマリ

神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手がける。

著書『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)