退職所得課税制度の見直し


退職金規定を持つ女性
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雇用保険制度とならび、もう一つ重要な論点となっているのが「退職所得課税制度」です。そもそも退職所得課税制度とはどのようなものなのでしょうか?

退職所得課税制度とは

私たちがもらう給料や賞与からは、所得税や雇用保険などが天引きされています。そのため、給料や賞与の手取り額は、額面金額と比べると少なくなっています。

ですが、退職金をもらう場合は、こうした税金などの課税要件がかなり緩和されています。その理由は、退職金には以下の退職金控除があるためです。

国税庁ホームページ「退職金にかかる税金」より一部抜粋

そこで、勤務年数2年で退職金を1000万円支給された場合の税金がいくらになるのかをシミュレーションしてみます。この場合の退職金控除額は以下のようになります。

勤続年数2年の退職金控除額・・・40万×2年=80万円

退職金から退職金控除額を差し引いた金額(これを「課税退職所得金額」といいます)に対して、以下の税額表で算出した金額が課税されます。

国税庁ホームページ「退職金にかかる税金」より一部抜粋

したがって、勤務年数2年で退職金を1000万円支給された場合の所得税額は以下のようになります。

退職金に対する所得税額・・・(1000万円-80万円)×33%-1,536,000円=1,500,000円

勤務年数が長くなると所得税が課税されない

次に、退職金を同じ1000万円もらう場合でも、勤続年数が長くなるとどうなるのかを考えてみます。勤務年数30年で退職金1000万円が支給された場合、退職金所得控除額は以下のようになります。

勤続年数30年の退職金控除額・・・800万+70万×(30-20)年=1500万

この場合、退職金の1000万円よりも退職金控除額の1500万円の方が多くなるため、所得税額は0円です。

つまり、退職所得課税制度は、転職しないで長く在籍する程得をするように設計されているわけです。特に、勤続年数が20年を超えると、この退職金控除額はさらに急カーブを描いて増えて行きます。これが、雇用の流動化を阻害している一因となっているわけです。

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まとめ

頑張って働いて給料を増やしてもらうためには、個人の努力が必要なのは言うまでもありませんが、それだけではまだ十分ではありません。そもそも向いていない場所で我慢しながら努力をしたとしても、思い通りの成果を出すのは難しいからです。

ですが、現在の日本では、転職しないで我慢していた方が得をするように設計された制度がまだまだ生きています。こうした制度を一刻も早くアップデートし、今の働き方に合ったものに再設計し直すことが大切なのではないでしょうか。

今回の失業保険給付制度と退職所得課税制度の見直しは、こうしたアップデートに向けた大きな一歩となる事でしょう。