「虐待、殺処分、実験…」“もの言えぬ”動物たちの権利を守る「どうぶつ弁護団」の活動とは?

全国犬猫飼育実態調査(令和3年、一般社団法人ペットフード協会調べ)では、犬が710万6千頭、猫が894万6千頭、犬・猫 推計飼育頭数全国合計は、1605万2千頭で飼育頭数は緩やかに増加している。

一方、動物を虐待したとする動物愛護法違反で全国の警察が2022年1年間に摘発した事件は166件あり、187人が逮捕・書類送検された。統計を取り始めた10年以降では、21年の170件、199人に次ぎ、件数・人数とも2番目に多かった。

日本でも徐々に動物たちの権利を守る法律や取り組みが進んでいるが、まだまだ改善の余地があると言われている。飼い主からの虐待、所有者のいない動物(野良犬猫)への虐待、多頭飼育崩壊など身近な問題と言える。

そんな中、2022年9月、細川敦史弁護士が中心となり設立した「どうぶつ弁護団」(兵庫県伊丹市)は、動物たちの権利を守るために、弁護士や市民団体の有志が集まって設立された団体だ。12月1日から虐待に関する情報提供の受付を公式サイトでスタートした。

どうぶつ弁護団とは

2022年9月、細川敦史弁護士は、弁護士、獣医師、学識者など各分野の専門家や市民団体と連携しながら、動物虐待を防止することにより、人と動物の共生社会の実現を目的とする日本で初めての団体を設立した。

動物虐待事件が発生した場合に、適切な処分を講じるための活動が主な事業内容で、その先にある理念は、動物虐待の予防によって、人と動物に優しい社会を目指すことだ。動物に関する法的問題に特化した日本で唯一の組織になる。犬猫の殺処分ゼロや動物愛護法の改正への取り組みや、動物虐待や動物実験に関する相談も受け付けており、動物たちの権利を守るための活動を行っている。

具体的には、動物の虐待(動物の殺傷、遺棄を含む)が発生した場合に、弁護士や獣医師と連携し、どうぶつ弁護団が主体となって告発等の手続を行う。もの言えぬ動物たちに対して適切に捜査・処分がなされるための活動だ。寄せられた多くの情報にすべて目を通し、対応すべきかつ対応可能と思われるケースについて、理事会で検討し、告発することを正式に決定した上で、事案担当弁護士を定める。これまで寄せられた情報は130件。今までに大阪で2件、東京で1件の3件の告発を行っている。


足にトラバサミがかかった猫〈告発事例①〉(写真:どうぶつ弁護団)


顔に釣り針が刺さった猫〈告発事例②〉(写真:どうぶつ弁護団)

動物関係法令に対する提言も行う

細川弁護士は、「告発の件数が独り歩きするような事態は本意ではない」と言う。告発するかどうかは、極めて慎重に検討を重ねている。ただし、「告発対応ができないからと言って、それらの情報をそのままに切り捨てるようなことはしたくない」(細川弁護士)とも話す。告発をしないケースでも、警察や行政へは情報提供を行う。例えば、「多頭飼育崩壊」は業者の管理不備だけでなく、飼い主の高齢化や認知症などが原因となるケースもあるからだ。

また、弁護団は、動物関係法令、制度に対する提言も行っている。これは、動物愛護法の改正を求める活動で、現行法では、動物虐待の罰則が軽く、実際に罰則が科せられることが少ないためだ。20年ほど前までは、動物愛護管理法(当時は「動物保護管理法」という名称)では、犬猫その他家畜などの動物を殺傷・虐待・遺棄した場合、「罰金3万円」以下でしか処罰されなかった。刑罰が軽かったこともあるが、動物虐待事件に対するメディアや社会の関心も高くはなかった。その後、動物虐待を許さないとする社会的関心が次第に高まり、法改正のたびに厳罰化され、2020年6月からは、殺傷罪の法定刑は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金となった。

また、動物の虐待を予防し、動物愛護への理解を深めるための普及啓発活動も行っている。動物関係団体などからの情報提供に対しては、弁護士費用負担することなくアクションを起こせることを説明し広く関心を持ってもらうよう取り組んでいる。さらに、犬猫の「殺処分ゼロ」を目指し、自治体や動物保護団体などと連携して活動を行い、里親制度の拡充や飼い主の教育などを提案・実施している。

動物虐待「凶悪事件」につながる可能性も

先に述べたように、動物愛護管理法はこれまでにも改正がなされ、愛護動物をみだりに殺傷した者は『5年以下の懲役または500万円以下の罰金』となっている。愛護動物に対しえさや水を与えずに衰弱させるなど虐待を行った者には、『1年以下の懲役または100万円以下の罰金』が科される。また、動物愛護法の動物虐待の定義について、ネグレクト(放置)が明文化された。これまで曖昧だった虐待の定義が明確になり、放置された動物を目の前にして、虐待の定義がないという理由で立件できないでいたが、警察や行政は現在では立件が可能となった。さらに、2019年の改正により、動物虐待について獣医師は通報義務が課せられた。

細川弁護士は、「何者かによりケガを負わされた動物が『かわいそうだ』という観点からだけでなく、動物虐待が人への凶悪事件につながる可能性も否定できず、一件でもあれば取り返しがつかない以上、動物虐待が発覚した時点で対応すべきではないか」という考えだ。

人にとって身近な存在であり物言わぬ動物。彼らに対する虐待を防ぎ、動物にとって健康で安全な環境を築くことは、われわれ人間が他者の存在を尊重し、命を大切にする社会を築くことにつながるのではないだろうか。どうぶつ弁護団のこれからの活動を注目したい。