働き方の多様化が進んでいます。転職や副業もそうですが、サラリーマンを辞めてフリーランスになる人も増えていますし、スタートアップカフェやクラウドファンディングなど新事業にチャレンジするための支援の輪も広がっています。

自分で仕事を始めるのは勇気のいることでもありますが、やり甲斐は倍増です。そんなフリーランスが押さえておきたい税金や年金、健康保険の手続きや知識について見ていきましょう。
 

フリーランスになると変わる年金や社会保険などの身の周りのお金

公的年金

会社員は厚生年金に加入し、会社が半分保険料を負担してくれます。しかも厚生年金保険料の中には国民年金保険料も含まれているため、厚生年金と国民年金の2段構えで老後に備えていることになります。

一方で、フリーランスになると国民年金のみの加入となり、保険料も全額自己負担です。令和3年度の国民年金保険料は月1万6610円となっており、会社員の時に扶養に入っている配偶者がいる場合、国民年金になると扶養という扱いがなくなり、夫婦それぞれが国民年金保険料を支払うことになります。

国民年金の負担を少しでも負担を抑えたい場合は前納をすると良いでしょう。
半年分、1年分、2年分を前払いすると次のような割引が適用されます。

前納をした場合の割引額
・半年分前納・・810円の割引
・1年分前納・・3540円の割引
・2年分前納・・1万4590円の割引

さらに、口座振替にすると割引率が上がります。まとめて支払うのが大変な場合は、1カ月だけ前倒しで支払う「口座振替 早割」を選択することもできます。

フリーランスになると公的年金に厚みが無くなるだけでなく、退職金や企業年金もありません。そのため例えば、国民年金に400円上乗せして払う付加年金への加入や、国民年金基金への加入、iDeCo(個人型確定拠出年金)、小規模企業共済などを活用し将来への備えを考える必要があります。

なお、収入が安定せず国民年金保険料の支払いが難しい場合は、滞納するのではなく払込免除の手続きをすると良いでしょう。所得に応じて4分の1免除~全額免除を受けることができます。滞納に比べ免除は将来の年金額の上乗せに繋がります。

また、滞納をすると、いざという時に遺族年金や障害年金を受け取れない可能性があるため注意が必要です。もし配偶者が会社員なら、一時的に配偶者の扶養に入るという方法もありますね。

健康保険

会社員時代の健康保険料も年金と同様に労使折半ですが、フリーランスの国民健康保険は全額自己負担です。国民年金と同様に扶養という概念はありません。

なお、全額自己負担にはなりますが、会社を退職して直ぐに手続きをすれば2年間は任意継続被保険者としてこれまでの健康保険に加入し続け、配偶者を扶養に入れることもできます。国民健康保険料と比較して負担が少ない方を選択すると良いでしょう。

フリーランスになっても、病院で治療を受けた場合の自己負担3割は変わらないものの、病気やケガで仕事ができず給与が支給されない場合等に受け取れる「傷病手当金」や、出産前後の休暇時にもらえる「出産手当金」は国民健康保険や任意継続健康保険にはありません。

また、フリーランスは雇用されている訳ではないため雇用保険に加入できません。そのため、会社員が育休時に受け取れる「育児休業給付金」の支給もありません。社会保障は会社員の方がずいぶん恵まれていることが分かります。なお、出産費用がほぼまかなわわれる「出産一時金」は誰もが受け取れます。

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フリーランスが払う税金と控除の種類


税金
【画像出典元】「stock.adobe.com/Dilok」

会社員時代の税金は、特にあれこれ考えずとも給与天引きにより自動的に徴収され、年末調整の手続きさえすれば一般に確定申告は必要なく税金関係の手続きを終わらせることができます。

一方、フリーランスは全て自分で手続きし納付まで行わなければならず、税金の知識が必要です。税理士にお任せする方法もありますが、所得が少ないうちはボリュームも少ないことが多く、コスト削減にもなりますので、勉強して自身で処理できるようにしておきたいものです。

それでは、フリーランスが知っておきたい税金の知識を確認していきましょう。

所得税

所得税とは、収入がある人が納める国税で1月1日~12月31日までの収入を計算し確定申告により納めます。所得税は、収入に対して納付額が決まるのではなく、収入を得るために掛かった経費や扶養などの所得控除を差し引いた課税所得によって納付額が決まります。つまり、フリーランスの場合、売上(=収入)に対して税金を納付する訳ではありません。

所得税率は所得が増えると徐々に上がる累進課税です。「徐々に」あがるため、一定の所得を超えると急に負担が増すわけではないので安心してください。

(図表1)



図表1でもう少し詳しく確認していきましょう。
所得税の計算は、まずは収入(=売上)からそれを得るのにかかった経費を差し引き、所得(=フリーランスの場合は事業所得となる)を計算します。例えば、フリーライターの場合は、打ち合わせ時の交通費やインターネット、電話などの通信費、ノートやコピー用紙、インクなどの文具、情報収集のための書籍代などが経費として考えられます。

さらに経費を差し引いた所得から1年間に支払った社会保険料や、家族を扶養している場合の配偶者控除、扶養控除、生命保険に加入している場合の生命保険料控除、基礎控除などその人に応じて所得控除を差し引くことができます。この所得控除を差し引いた残りを課税所得といい、その課税所得に対して所得税を納めるということになります。

(図表2)



また、所得税率は累進課税で、5~45%と幅があります。所得が少ない人は税負担を少なく、高い人は税金を多く納めるようになります。ただ、所得が増えると一気に税負担が増えるという訳ではありません。図表2のように、課税所得195万円までの部分は5%、195万円超~330万円未満の部分は10%、というように区分ごとに税率が適用されます。

つまり、所得が高いから所得全体に高い税率が適用されるわけではないということです。実際は区分ごとに計算をすると大変なので図表3のように速算表が準備され簡単に計算することができます。

(図表3)



 (注) 例えば「課税される所得金額」が700万円の場合には、求める税額は以下
 700万円×0.23 – 63万6000円= 97万4000円
※ 平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付する

住民税

住民税は、都道府県や市区町村に納める税金で、計算の流れは所得税の場合と同様です。一般には、確定申告をすると同時に都道府県や市区町村にも連携され住民税が計算されます。

春ごろに確定した住民税の納付書が届きます。年4回に分けて納付しますが、うっかりして納期限を過ぎてしまわぬよう銀行引落しやクレジットカード払いなど自動化しておくとよいでしょう。なお、住民税は所得割と均等割の2つがあり、所得割の税率は10%、均等割は、自治体によりますが5000円程度が目安となります。

個人事業税

フリーランスになると会社員時代と違い、新たに個人事業税についても知っておく必要があります。納付先は都道府県です。ただ、すべてのフリーランスが対象ではなく、課税所得が290万円を超えると事業の種類によって通常3~5%を納めます。

こちらも所得税の確定申告をすると連携され個人事業税の納付書が届きます。納期限8月、11月の2回ですが、意外と知られていない税金なので想定外で準備をしていなかったということにならないよう資金繰りには気を付けたいものです。

消費税

消費税は、課税売上が1000万円を超えると納付しなければなりません。課税売上とは、簡単にいうと消費税の対象になっているものやサービスの売上のことをいいます。仮にラーメン店が、1杯1000円(税込み価格1100円)でラーメンを販売していたとします。1杯売れた場合、課税売上は消費税がかかる前の1000円となります。

ただ、この判定は、前々年の課税売上で判断するため1000万円を超えた年に直ぐに納付義務が発生するわけではありません。開業2年目までは、前々年の売り上げがないため免税事業者として消費税の納付は不要となります。ただし、例外として前年1月~6月の半年間で課税売上が1000万円を超える場合は、免税事業者となることはできず納付義務が発生します。つまり「半年で1000万円も売り上げがあるなら、消費税を納めてね」ということです。

毎年4月末が納付期限となり、1年分のまとまった金額を納付するため、納付義務がある年は少しずつ積み立て準備をしていくとよいでしょう。

固定資産税

フリーランスは、自宅を事務所として利用するケースも少なくありません。持ち家の場合は固定資産税を納めますが、仕事場として利用している割合に応じて固定資産税を一部経費とすることもできます。毎年1月1日時点の固定資産の保有者が納付者となり春に納付書が届きます。年4回に分けて納付します。

節税できる方法、控除について

このように所得税や住民税、個人事業税は所得によって納める金額が変わります。納税は、私たちが安心した生活を送るために必要な社会の仕組みですが、納める立場としては、できるだけ負担を抑えたいというのが正直なところです。税金の知識を身に着けることで節税にもなります。

先ほど自宅兼事務所の場合は、固定資産税の一部が経費の対象となると記しましたが、その他にも水道光熱費や電話・インターネットのプロバイダー代など仕事での利用割合に応じて案分し経費計上することができます。

取引先との会食だけでなく、喫茶店での打ち合わせで支払ったコーヒー代やノート、ペンなどの文房具も経費にできます。少額の支払いで領収書を管理するのが面倒ですが、ちりも積もれば結構な金額になるものです。

また、フリーランスになって税務署に開業届を提出するときは「青色申告承認申請書」も提出しましょう。これによって青色申告特別控除55万円(電子申告e-Taxの場合は65万円)が受けられ、所得を小さくすることができるため節税となります。

この控除を受けるには、日々取引を複式簿記で付け、取引をしっかり記録管理し、申告時に貸借対照表や損益計算書を添付し期限内に申告する必要があります。現金主義で簡易な帳簿を付けるなどの場合は青色申告者の控除額は10万円と少なくなるため、所得から差し引ける控除が減り、税金等の負担が大きくなります。実際に支払いが発生しなくても差し引ける控除ですので魅力的です。検討してみるとよいでしょう。

なお、フリーランスで得た報酬は、依頼元から最初に10%が源泉徴収され残りが支払われるようになります。これらは確定申告時に改めて税金を計算し、源泉徴収された分は差引することができます。源泉徴収されている所得税はもれなく申告しましょう。人によっては、源泉徴収分から還付を受けられちょっとした臨時収入を得ることができます。