少子化対策の一つとして、国が検討している出産費用の保険適用化。これから出産を控えている方の中には、保険が適用されることで出産費用の自己負担が減るのかどうか気になっている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回の記事では出産費用の保険適用化の概要と、制度が導入された場合に今までとどう変わるのかについて解説します。

出産費用の保険適用化とは


出産一時金
【画像出典元】「stock.adobe.com/ELUTAS」

政府が3月31日に「異次元の少子化対策のたたき台」を発表しました。その中でも、特に注目を集めたのが、出産費用の保険適用です。

現在、出産費用の自己負担額を抑えるために利用できる公的制度として、「出産育児一時金」が挙げられます。出産育児一時金とは、公的医療保険に加入している人が出産した際に国から支払われるお金のことです。令和5年4月より、子供1人当たり42万円から50万円(※)に引き上げられました。なお、夫の扶養に入っている妻は、夫の加入している公的医療保険から支給されます。

しかし、出産にかかるお金は地域によって大きな差があるのが現状です。厚生労働省が公表した「出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について」によれば、出産費用の全国平均額(公的病院、私的病院の全施設)は46万7000円です。ただしこれはあくまでも平均値です。私的病院よりも比較的出産費用が抑えられる公的病院の出産費用をみても、一番高い東京都が約55万3000円、一番安い佐賀県が約35万1000円とかなりの地域差が生じています。

そのため、特に都市部においては出産育児一時金を50万円に引き上げたとしても、すべてをカバーすることは難しいでしょう。またこれまでも、一時金が上がると病院側の出産費用も上がる「いたちごっこ」が繰り返されており、今回も同じような結果になるのではといった懸念も上がっています。

このような背景を踏まえ、出産費用の保険適用化が取り上げられたといえるでしょう。

(※)妊娠週数が22週に達していないなど、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、支給額が48万8000円となります。

(広告の後にも続きます)

保険適用で自己負担が増える可能性も?

出産費用が保険適用になれば、患者の負担は3割で済みます。一見改善されたように見えますが、実は「地域によっては負担が大きく増えるのでは」と懸念する声も少なくありません。

どういうことなのか、まずは現状の負担額から確認していきましょう。

【現状の負担額(出産育児一時金が支給される場合)】
東京:出産費用平均55万3000円ー50万円≒約5万円の自己負担
佐賀:出産費用平均35万1000円ー50万円≒約15万円を差額として受け取れる

現状、4月から出産費用育児金が増額されたことに伴い、東京は5万円の自己負担、佐賀は約15万円が手元に残り、地域差が大きいことが分かります。また、出産育児一時金の額が増えると病院側の出産費用も上がるこれまでの傾向を踏まえると、この平均額も今後上がる可能性が高いでしょう。(※自己負担額が増える)

こうした点を踏まえ、出産費用の保険適用化が検討されたわけですが、実際に保険が適用されると次のようになります。

【出産費用が保険適用になった場合】
東京:出産費用平均55万3000円×30%≒約16万5000円の自己負担
佐賀:出産費用平均35万1000円×30%≒約10万5000円の自己負担

このように、保険適用で3割負担となった上で一時金が廃止になると、自己負担額が増える人が出る可能性があります。

しかし、岸田首相は「自己負担ゼロの制度を検討している」と話していることもあり、仮にその制度が実現すれば出産費用は実質ゼロということになります。とはいえ、どこまでを保険適用とするのかなど、まだまだ決めなければいけないことが多く、今後も制度の方向性を注視していく必要があるでしょう。

また、出産のために会社を休み、その期間の給料の支払いが受けられない場合は公的制度として「出産手当金」が利用できます。出産手当金は、原則として出産のために会社を休んだ期間が支給対象です。

対象期間は、出産の日(実際の出産が予定日より後であった場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までが範囲となっています。出産が予定日より遅れた場合は、実際に出産した日までの遅れた日数分も追加して支給されます。出産手当金として支払われる金額は給料のおよそ3分の2が目安です。