山川穂高「自信をもって言えます」“無罪”主張も…性加害側「浅はかな」“思い込み”をしがちなワケ

知人女性に性的暴行を加えたとして、5月23日に強制性交容疑で警視庁に書類送検された西武ライオンズ・山川穂高氏。

書類送検前の5月9日夜、山川氏は文春オンラインの直撃取材に対して「(無理やりわいせつな行為をしたことについて)僕は完全に違うと思っていて自信をもって言えます」「僕としてはもちろん不起訴になる事案であろうと思っている」「無理矢理するほど、なんていうんですか、いかれてないというか(笑)」など話したというが、相手女性は下半身から出血するけがを負っており、処罰感情も強いとされている。両者の主張はなぜこうも食い違っていたのだろうか。

浅はかな思い込み

山川氏の件に限らず、性暴力事件では被害者と加害者の間で「同意があったか」が争点となることが非常に多い。性暴力被害者の支援にも力を入れる青木千恵子弁護士は「誘う側、誘われる側の“認識の違い”が大きいことが一番の問題です」と指摘する。

「『嫌よ嫌よも好きのうち』という言葉もありますが、性暴力に限らず、『嫌』を『嫌』と受け止めない感覚は、意外に多くの人が持っています。

そして性暴力においては、誘う側が『飲み仲間だから』『家に遊びに来てくれたから』『付き合っているから』『必死に抵抗しなかったから』などという理由で『相手もいいと思っているはず』と浅はかな思い込みをするケースが少なくありません。

しかし、たとえ夫婦やカップルだったとしても、誘われる側が『今日は疲れているから』『お互いの関係がよくないから』『結婚するまでは』など、さまざまな理由で『今は嫌だ』と感じる場面もあるはずです。そういうときに無理やりしようとすれば、夫婦・カップル間でも強制わいせつ罪、強制性交等罪が成立する可能性はあります。

性暴力は特に被害者が受ける心の傷が大きいため、非常に問題が色濃くなります。山川氏のケースもそうですが、被害者側の処罰感情が強くなるのは当然です」(青木弁護士)

山川氏は“自信満々”に否定していたが…

山川氏は文春オンラインの直撃取材に対して「もうぜったいに力とか、相手がめちゃめちゃ嫌がっているのにっていうことは絶対にない」など、時折笑みを浮かべながら自信満々に答えたという。

「報道によれば、現場となったのは山川氏が自ら予約したホテルだったそうですが、彼の頭の中で『そういう行為をしたいと思って取った部屋に相手が来てくれた、だから相手もOKなはず』と、認識が飛躍してしまった可能性も考えられます。

また直撃インタビューの記事では『無理やりではない』という発言はあったものの、『相手も行為を望んでいた』という言葉は見当たりませんでした。記事に書いていないだけではなく、インタビュー時にも一切そのような言葉がなかったのだとすれば、相手にきちんと『同意』のリアクションを取ってもらったわけではないのだろうと想像されます」(青木弁護士)

なぜ「自分は悪くない」と思い込むのか

加害者は「抵抗されなかったから」という理由で「同意があった」と誤認してしまうケースも非常に多いというが、被害者は「抵抗したくてもできない」という状況に陥っていることが珍しくない。青木弁護士はその理由として「正常性バイアス」「加害者との関係性」を指摘する。

「想定外のことに直面した場合、人には『正常性バイアス』が働き『自分に起きていることは大したことではない』と思い込もうとします。その結果、逃げたり抵抗したりするのが遅れてしまうのです。

本来であれば、望まない性行為に対して『やめて』と言えばいいと分かっていても、いざそういう状況に置かれると、頭で考えられずフリーズして、抵抗できなくなってしまうということは非常に多いです。

また、昨今ジャニー喜多川氏の性加害問題でも話題になっていますが、加害者の社会的地位が上だった場合、『抵抗したことによる不利益』を理由に抵抗が難しくなります。

その結果、加害者は『相手が嫌がっていると思わなかった』として、勝手に『自分は悪くない』と思い込んでしまうのです」(青木弁護士)

現行法における「強制わいせつ罪」「強制性交等罪」の成立要件は厳しく、被害者が抵抗することが「著しく困難」でなければ成立しないというあいまいな基準によって、無罪判決が言い渡されるケースも少なくなかった。

しかし5月30日に衆議院本会議を通過した刑法改正案では「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」という罪名に改められ、成立要件として「予想と異なる事態に直面して恐怖・驚愕」「経済的・社会的地位の悪用」など「こんな場合は抵抗しづらい、嫌と言いづらい」という具体的な状況が列挙されることで、「同意の有無」が判断しやすくなっている。

「これまでは、被害者が取り調べなどで『なぜ抵抗できなかったのか』と聞かれる場面が多く、責められているような気持ちになって非常につらい思いをする方が数多くいました。改正法が施行されれば『抵抗したくてもできなかったんですよね』という確認だけで済むので、今回の改正法に列挙されていない状況の問題も出てくるとは思いますが、それでも大きな前進だと思います」(青木弁護士)