不仲なきょうだいに遺産を渡したくない…夫に先立たれた83歳“おひとりさま”の「上手な終活」【FPが解説】

5年前に夫を亡くしてから、相続したマンションに1人で暮らす83歳のAさん。金銭的には困っていませんが、とある理由から自身の相続に関して不安を抱えていました。FP Officeの中山梨沙FPが、“おひとりさま”が知っておきたい相続対策について解説します。 

不仲なきょうだいを相続人にしたくない…Aさんの「秘策」 

埼玉県に住むAさん(83歳)。子どもはおらず、5年前に夫を亡くしてからというもの、相続したマンションに1人で暮らしています。夫から相続した財産があることから、生活には困っていません。

しかし、Aさんには気がかりなことがひとつあります。それは、「弟と妹」の存在です。仲が悪く、長い間連絡をとっていないものの、子どもがいないAさんは「もし自分が亡くなったら兄弟が相続人となってしまう」と不安に思っています。

現在のAさんの状況は下記のとおりです。

・現預金:5,600万円(運用商品は特になく、全額預金に置いている)
・住居:駅から徒歩5分圏内のマンション(住宅ローンはすでに完済、修繕積立金・管理費月額3万円)
・生活費:年金(月額23万円)の範囲内

なお、これらの財産に対しては「基本的には使い切りたい」と考えているものの、もし余った場合はあしなが育英会に寄付する予定です。

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不仲なきょうだいに財産を渡したくない…Aさんは「終活」を開始

夫が弁護士をしていたため、生前から相続対策についていろいろ教えてもらっていたAさん。「幸い遺留分はないから、きょうだいに遺産が渡らないよう、元気なうちから対策するといいよ」と教えてもらっていました。

そこで、Aさんが最初に取り組んだのは、「遺言書」と「死後事務委任契約書」の作成です。

遺言書は、作成することで「金融資産」についての自分の意志を残すことができる一方、死後事務委任契約では、死に伴い発生する「行政手続き」等の意志を反映させることができます。

死後事務委任契約であれば、死亡届の提出から葬儀の取り仕切り、水道・ガス等の契約の解約手続き等にいたるまで、信頼できる方に一連の手続きを「委任」することができます。

遺言書に死後の手続きについて記載することもできますが、意向を伝える程度で効力は発生しません。死後事務委任契約は、Aさんのような1人暮らしの高齢者には心強い味方です。

また、契約後、安否確認や定期訪問サービスを受けられる場合もあります。有料のためランニングコストが発生するものの、1人暮らしの高齢者にとっては安心感があります。

作成の際は「公正証書」で

また、遺言書・死後事務委任契約書いずれも、作成の際は効力が強まるよう「公正証書」で作成することをおすすめします。

遺言書は、公正証書遺言の他にフォーマットも自由で気軽に作成できる「自筆証書遺言」という方法を選ぶこともできますが、いざ作成した本人が亡くなり相続が発生した際に、家庭裁判所において「検認」を通さなければなりません。

この検認はその遺言書が効力のあるものなのか判断するためのものですが、完了するまでには数週間~1ヵ月程度時間がかかってしまいます。

その点、公正証書の場合は、作成時に少し手間がかかるものの相続発生後の流れがスムーズです。

Aさんは、夫の知り合いである弁護士にお願いして、これら2つの書類を作成することにしました。

かかる費用は依頼先によって異なるため、皆さんが作成される際には複数を比較されることをおすすめします。

<遺言書、死後事務委任契約書作成にかかる費用>
※財産の内容や、依頼する仕業によって費用は異なる

■公正証書遺言書作成:約22万円
(内訳……公証役場での費用等で2万円程度、弁護士依頼費用で20万円程度)

■死後事務委任契約書作成:約22万円+契約後費用月額約3万円
(内訳……公証役場での費用等で2万円程度、弁護士依頼費用で20万円程度、
安否確認や定期訪問サービス等費用で、月額3万円程度)