「業界衰退を促進」パチンコ台の販売方法巡りホール側が悲痛な叫び… 法的手段も「望み薄」打ち手も厳しい状況続く?

新型コロナや、遊技人口の減少などの影響でホールの倒産が続くパチンコ業界。今年7月に流通が始まる新紙幣への対応やスマート遊技機の増加によってさらなる設備投資が見込まれることから、今後もこの傾向は続くのではないかとも言われている。

そんな苦しいパチンコ業界を巡り2月上旬、SNSなどで「とある文書」が話題となった。

「業界衰退を促進」台の販売方法巡りホール側が悲痛な叫び

2月1日にパチンコライター・タレントの大崎一万発氏が文書の一部とされる画像をX(旧Twitter)に投稿。続いて2日には大崎氏と多数のパチンコ番組で共演しているヒロシ・ヤング氏が自身のYouTubeチャンネルを更新し「文書」の中身について解説していた。

SNSなどインターネット上でも同様の画像が拡散されており、それらの投稿を見ていくと「文書」はパチンコホールの全国組織である全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)の理事長から、各都道府県のホール団体の理事長宛に出されたものだという。

その内容は、株式会社ビスティ製のパチンコ台『P シン・エヴァンゲリオンX』の販売方法に関して実態調査結果を行ったところ、

1.『P シン・エヴァンゲリオンX』の総販売元であるフィールズ株式会社の販売方法に「疑義がある」と666のホールが回答した
2.調査で得られた情報を分析した結果、そのほとんどがメーカー団体および販社団体が作成・配布している「独占禁止法コンプライアンスマニュアル」の中で「抱き合わせ販売又は優越的地位の濫用として独占禁止法の違反行為に当たる可能性がある」としている販売方法であった

とのことが分かったとし、調査結果をフィールズに送付。同社に見解について回答を求めたほか、パチンコメーカーの団体である日本遊技機工業組合(日工組)にも調査結果を送付し、各メーカーへの指導を要請したことが書かれている。

文書では、上記の要請以外にもメーカーや販社に対するホールからの声もまとめられており、「明確なルールが存在していないこと」や「地域差が激しく、透明性や平等性を著しく欠いている」といった指摘が上がっており、中には以下のように業界の衰退を危惧する声もあった。

「他メーカーでも言える事だが、お付き合いの範疇を超える販売方法が目立つ。遊技人口や店舗数を考慮せず大量に販売を行い、ホールの稼働には貢献しない。

そのような状況でもお付き合いを匂わすためホールが疲弊する。遊技人口が減少し、ホール店舗数も減少しているにも関わらず、毎月大量に新台を発売し、お客様やホールの負担増となり、悪化の一途を辿っている。

メーカーの増収増益が目立ち、売り手と買い手の関係性が崩壊しており、長期的な目線でみると、業界衰退を促進している原因になっているのではないか」

全日遊連「文書送付は事実」

文書の内容を受けて、インターネット上では「ホールが潰れる原因はこれか」「ユーザーがしわ寄せを被っている」「最後に泣くのはユーザー」といった声や、“罰則”を望む声があがっていた。

一方で、全日遊連のHP等にはこの文書は掲載されておらず、同様に日工組、フィールズ側の声明等も確認されていない。

全日遊連に提出されたとされる文書について聞いたところ、実態調査結果を各都道府県遊協(連)、フィールズ、日工組に送付したことは事実であると認めたうえで、「ホール側から上がっている、遊技機の販売方法に関する問題については全日遊連でも把握している。今後も、問題のある販売方法について適宜是正に向けた対応を図っていく」とした。

対抗手段はあるものの「ハードル高い」

ではこうした販売方法について、ホール側が販売会社などを相手に訴訟を起こすといった対抗手段を用いることはできないのだろうか。

企業法務に詳しい三島広大弁護士は「現実的に被害回復をすることのハードルは高いといえます」と指摘する。

「ホール側の対抗手段としては、遊技機の販売方法が独占禁止法に違反する可能性があるとして、公正取引委員会に申告することが考えられます。

申告を受けた公正取引委員会が調査を行った結果、独占禁止法に違反する行為があると公正取引委員会が認めれば、違反行為を速やかに排除するよう命じる『排除措置命令』が下されることになります。

また、一定類型の独占禁止法違反行為に対しては、公正取引委員会から『課徴金納付命令』が下されることがあるほか、独占禁止法違反行為が民法709条の不法行為であるとして、民事上の請求として損害賠償請求をすることもできます。

なお独占禁止法では、同法に違反する行為を行ったことにより損害賠償請求を受けた事業者が、民法709条に基づく請求の要件である『故意又は過失』がなかったということを主張して損害賠償の責任を免れることはできないとされています」(三島弁護士)

ここまでの説明だと、ホール側にも販売会社などに対抗する「チャンス」があるように見える。しかし、被害回復に至るにはまだまだハードルがあるのだという。

「損害賠償請求を受けた事業者にそのような『無過失責任』を負わせることができるのは、独占禁止法違反行為があることを公正取引委員会が認め、『排除措置命令』又は『課徴金納付命令』がされた場合に限られています。

また、実際に独占禁止法違反行為が公正取引委員会に認められた場合であっても、損害賠償請求が認められるためには、独占禁止法に違反した特定の不法行為によって、特定の損害が生じたという法的な因果関係が認められることが必要です。

独占禁止法違反行為と損害との因果関係が認められて損害賠償請求が認容されたというケースは極めて少なく、私が調べた限り、抱き合わせ販売の事例で損害賠償請求が認められている裁判例は見当たりませんでしたので、相当にハードルが高い請求ではあると思います」(三島弁護士)

上述した文書について、送付先のフィールズと日工組からどのような反応があったのか全日遊連に聞いたところ「回答を差し控える」とのことで、問題のある販売方法が是正される見込みがあるのかは不透明だ。

その上で、ホール側が販売会社らに対する法的手段をとるのも難しいとなれば、今後もホール側は厳しい状況が続くことが予想される。そしてホール側がどこで負担を補うのかを考えれば、打ち手にとっても苦しい状況が続くことは想像に難くない。