「会社に来たくないから休み」身勝手すぎる行動で解雇…納得できず「無効」訴えた従業員に裁判所の判断は?

こんにちは。弁護士の林 孝匡です。

今回お届けするのは、パンダのぬいぐるみを着て仕事をした社員の事件です。この社員は、ほかにも「会社に来たくないから休み」「アホ部長」「ある上司が嫌いなので1人ストライキ」などとメッセージも残したりしていました。

会社が解雇したところ、社員が「こんな解雇は無効だ」と提訴しました。

ーー 裁判所さん、鶴の一声をお願いします。

裁判所
「解雇OK!」(近畿車輛事件:大阪地裁 R3.1.29)

以下、わかりやすく解説します。

※ 争いを簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

▼ 会社
鉄道車両の製造販売などを行う会社

▼ Xさん
設計業務に従事

事件の概要

▼ グループウェア(情報共有ツール)上でのトンデモ書き込み
そのグループウェアでは社員間でスケジュールが共有されていました。Xさんは、そこに以下の書き込みをしました。

・会社に来たくないから休み
・仕事が嫌いでさっさと帰る
・ある上司が嫌いなので、一人ストライキ
・就活 Y社のような残虐非道でないところを探す
…etc

ーー 会社はこれを見てどうしましたか?

会社
「反省文を提出するよう伝えました。しかし、提出された反省文には…」

▼ 全然反省してねー!
Xさんから提出された反省文には以下の内容が記載されていました。

「私は、今回の件について反省する事は全くございません。建前上の反省文を提出致します」

これに引き続いて、一応は謝罪の言葉も記載されていました。

「但し、お忙しい中お時間を割いて頂いた関係各位には大変申し訳ございませんでした。また、最後のご挨拶にてメールを受けた方で、気分を害された方がいらっしゃったとの事で、その点については大変申し訳ございませんでした」

ちなみに、反省文の作成日には「皇紀2075年1月5日」と書かれていました。なんですかそれは。

▼ コラッ
会社はXさんに対して「けん責」の懲戒処分を出しました。コラッという注意です。

▼ トンデモ発言
Xさんは、部内連絡会のスピーチで「勤務しているのは会社を辞めるまでの時間つぶし」と発言しました。

▼ パンダのぬいぐるみを着て社内を歩く
さらには、部内連絡会にパンダのぬいぐるみをかぶって出席。さらにパンダのぬいぐるみをかぶったまま社内を歩いていました。

会社はXさんに対して「社内ではぬいぐるみを着ないで下さい。社員が不快に感じたりお客様に失礼となったりするので」と注意しましたが、Xさんは文書で抗議します。抗議文には以下の記載がありました。

「個人としての尊重を侵害され、差別を受けたと感じている。パンダのぬいぐるみ等のかわいい物が心の安静を保つのに重要な存在となっている」

▼ 仮入門証への記載
Xさんは以下の記載をしました。部長のことがキライだったんでしょう。

・アホぶちょーがいるけんかい
・ボケのけんかい
・部長がやくたたたずなけんかい
・ブチョーボケなけんかい
・ボケブチョーのいるけんかい
・ぶちょうつかえないけんかい

▼ 社内で転倒
ある日、Xさんが社内の側溝で転倒しました。Xさんは救急車を呼び、課長に対して「会社側の安全不備です」と言い、大声でわめきました。

課長はXさんに対して「安全作業の心得の内容を知らないのですか」と質問したところ、Xさんは「知らないです」と答えました。

▼ 書き写し
そこで、会社はXさんに対して、安全規則の書き写しを指示しました。Xさんは4日間、書き写し作業をし、書いた枚数は306枚にのぼりました。

▼ 解雇
筆写作業を終えた日、会社はXさんを解雇しました。

▼ 提訴
Xさんは「解雇は無効である」「筆写作業は私に肉体的苦痛を与える私的制裁としての意味しかなく違法な業務命令なので慰謝料100万円を求める」と主張して提訴しました。

ジャッジ


弁護士JP編集部

裁判所
「解雇OK」
「筆写作業については若干疑問を感じるが、今回はOK!」

▼ 解雇OK
裁判所は以下の理由などを述べて「解雇はOK」と判断しました。

・グループウェアへの書き込みについて会社から3度も文書で注意を受けていながら、反省の意思を示さず、むしろ反発する態度を示していた。
・Xさんの一連の行動については業務上の必要性や合理性を見出し難い。
・Xさんが正常に業務を遂行、継続することはもはや期待し難い状態となっていた。

▼ 書き写し作業
こちらもOKとなりましたが、裁判所はやや悩みを見せていました。

裁判所
「たしかに、書き写しを命令したことについては、その相当性に疑問が生じ得るところではあります。単純な書き写し作業ですし、作成した枚数も306枚にものぼってますので…」

「しかし、Xさんが勤務意欲の喪失を明らかにしており、2日間は指示された仕事をしなかったこと、事故を起こしたあと『安全作業心得の内容を知らない』と答えておりXさんが再び事故を起こす危険性が否定できない状況にあったことなどに照らせば、書き写し作業については相応の業務上の必要性および合理性が認められると判断します」

解雇がOKになることはほとんどナイんですが、ここまでのレベルだとOKになるようですね。

ほかのトンデモ社員

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最後に

以上はレアケースです。解雇ってなかなか認められません。能力不足程度で解雇が認められることはほぼないと考えてください。

■ 相談するところ
なので、もし解雇された方や解雇をチラつかされている方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。

労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。

今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!