退職勧奨や4年半もの長期間の自宅待機を強いられた末に懲戒解雇されたメガバンク「みずほ銀行」の行員(50代男性)が同社に対し損害賠償、解雇の無効などを求めていた裁判の判決が4月24日、東京地方裁判所(須賀康太郎裁判長)で出された。
須賀裁判長はみずほ銀行に対し、330万円の賠償金の支払いを命じた。一方で、出社を命じたのに原告が拒否し、欠勤していた時期もあったとして、懲戒解雇の処分については有効と判断した。
判決を受けて、原告男性と原告代理人の中川勝之、笹山尚人両弁護士が同日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き、控訴の意向を明らかにした。
裁判長「通常想定し難い異常な事態」
日本の三大メガバンクの一角を占める「みずほフィナンシャルグループ」。その中核のみずほ銀行で何があったのか。
それは、関西圏の支店に勤務していた原告のひとつの行為がきっかけだった。
2014年9月、上司が店頭から見える位置で足を組んで新聞を読んでいることに原告が気付き、顧客から苦情があった旨も添えて支店長らにメールを送った。
しかし、それが裏目に出た。上司らから問題のある職員と目を付けられ、さらには退職勧奨まで受けるようになったという。
原告は2016年4月8日以降、2020年10月15日の終了まで4年半もの長期間にわたり自宅待機を命じられた。
これに対し、須賀裁判長は判決で「このような長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態」とし、「その対応は不誠実であるといわざるを得ない」、「社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として不法行為が成立する」と述べた。
賠償額は「(原告)慰謝するには到底足りない」
会見で、笹山弁護士は「長期間の自宅待機命令の違法性が認められたのは、他に類例を見ない」とし、以下のように続けた。
「法的に問題性がないとしていたみずほ銀行側の主張を排斥し、違法としたことは、極めてまっとうな判決であり高く評価する」
一方で、慰謝料額の330万円については、「著しい打撃を被った原告の心身および経済的被害を慰謝するには到底足りないものである」と指摘。
原告は長期化する自宅待機と、退職勧奨等でうつ病を発症し、心療内科への通院は100回を超えているという。「電車への飛び込みなど自ら命を絶つことを考えたこともあった」として、原告は慰謝料1500万円を求めていた。
「解雇を有効とした判断は著しく不当」
また、裁判所は懲戒解雇について冒頭の通り「有効である」とし、原告の請求を棄却した。
これについて笹山弁護士は「著しく不当な判断である」と言葉に力を込め、「一部勝訴として高く評価できる面がある一方、(解雇有効についてなど)残念な部分もあった」として控訴する意向を明らかにした。
その上で、被告のみずほ銀行に対しては、「わが国を代表するメガバンクとして、違法の判断を受けたこと、審理の中で明らかになったガバナンスの崩壊をしっかりと受け止め、それを改める行動を取っていただくことを切に望む」と求めた。
原告「働きたくても働けなかった」
事業主にパワーハラスメント防止を義務付けた「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法、2022年4月施行)。原告は、裁判を通じ被告の自宅待機命令や退職勧奨がそれに反していることも訴えていたというが、その点について審理が尽くされなかったと会見で語った。
「長期間の異常な自宅待機に関し、パワハラ防止法に沿った適切な対応をしてほしい、体調不良を考慮して適切に対応してほしい、とみずほフィナンシャルグループ社長、コンプライアンスのトップ、経営陣に何度も訴えてきた。
裁判で今回、被告側がパワハラ防止に沿った適切な対応がなされなかった部分について、全く触れていなかったことは非常に残念だった」
働き盛りの40代後半から自宅待機を命ぜられ、朝夕の上司への電話報告のみ義務付けられていた原告男性。4年半の自宅待機を含む“戦い”を振り返り、「働きたくても働けなかった。われわれ労働者にとって働く権利とは何か、(社会に)一石を投じることができた。裁判をやってよかった」と自らを諭すように静かに語った。