パリやその周辺に暮らす34組の住まいを訪ねて、部屋づくりの秘訣と、そこに詰まったベターライフのヒントを追いかけた特別編集MOOK「」。その中からここでは、編集者、クリエイター、コスメブランド〈ヨレーヌ・パリ〉代表も務める、カミーユ・ヨレーヌさんの住まいを特別に公開します。

修道院の庭に面する静寂なアパルトマン。

パリ20区のアパルトマンにパートナーと住むカミーユ・ヨレーヌ。

「広さは48㎡で、間取りはリビング、ダイニングキッチン、寝室。数年前に彼と購入しました。ダイニングはベギン会という半聖半俗の女性の修道院の庭に面し、とても静か。田舎のような雰囲気が気に入っています」

 インテリアのテーマは「ブロカント」。蚤の市やブロカントを訪れては、古い家具や雑貨を集める。「どのオブジェにもそれぞれ歴史があると思うと、わくわくします」

 ファッションもレトロなテイストを選ぶ。「古い映画からインスピレーションを受けることが多いですね。ジャック・ドゥミ監督の映画『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』の色彩、好きな色でもある赤の使い方は参考になります。以前は身長が159㎝と大きくないのが悩みでした。けれどブリジット・バルドーも背は高くないのに、それを感じさせない服の着こなし方をしていて感動。彼女のおかげで、コンプレックスから解放されました」

 洋服はヴィンテージショップや、〈A.P.C.〉、リサイクルカシミアブランド〈トリコ・パリ〉、〈プチ・バトー〉で探す。「ハイウエストのアイテム、色は赤のほかに青、水色、白が多いですね。いつも同じシルエットのデニムやドレスを選ぶので、制服みたいと言われることも」

 高校卒業後はパリの大学で文学を専攻。「小さい頃から読書が大好きで、作家になりたかったのですが、自信がなくて。それで広告代理店に就職しました。仕事は楽しかったです。〈ジバンシィ〉などファッションブランドから航空会社まで、さまざまな会社の仕事に取り組みました」

 そして数百万人のユーザーが登録するウェブマガジン『マイ・リトル・パリ』ビューティ部門の責任者に就任。インフルエンサーのジャンヌ・ダマスによるブランド〈ルージュ〉でライターを務め、独立した。


香水やコスメを置いているビューティコーナー。鏡とパレットはブロカントで購入。


鏡はパートナーの実家から運んだもの。ブロカントで見つけた花の絵をサイドに。


本はほとんどがカミーユのもの。愛用している香水、〈ゲラン〉のアクア・アレゴリアなども並ぶ。


リビング。ガラステーブルは両親からもらった。ソファは〈キャラバン〉。


大好きな作家、マルセル・パニョルの『La Priére aux étoiles(星への祈り)』、ポール・エリュアールの詩集『Derniers poémes d’amour(愛の詩集)』。


表紙の次の扉には、読んだ場所と日付を記録している。「あとで開いたときに、読んだときの記憶が蘇ります」

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独自の世界観を綴ったインスタグラムがブレイク。

「初めてインスタグラムでフリップリー(古着店の意)についての記事を書き、投稿をしたら、約3000人のフォロワーがつきました。そこで10人のフォトグラファーと協力し、好きな色、イメージや空気感を、フィルムによる撮影で表現、文章も綴ったところ、1年でフォロワーが3万人に。そこで人気があった投稿を研究し、編集や表現方法を練りながら投稿するようになりました。現在は、52万くらいの人がフォローしてくれています。以前、演劇を学んでいたので、俳優として舞台に立ったことはありますが、モデルの経験はありません。だからインスタを始めた頃、自分がインフルエンサーになるとは想像すらしていませんでした」

 そして2年の準備期間を経て、2021年にコスメブランド〈ヨレーヌ・パリ〉を設立。アーティストのアトリエ、貴婦人の小部屋、ヌーヴェルヴァーグの映画、ヴィンテージ、プリント、食事やデザートなど、日常生活から着想したものをコスメで表現。「コスメブランドを立ち上げるのは昔からの夢でした。父が画家ということもあり、幼い頃から色彩の美しさに惹かれていたんです」

 平日は7時30分に起床し、9時30分に出勤。18時30分には帰宅して夕飯の用意。「帰宅後、すぐにホームウェアに着替えます。いつもハイウエストの服を好んで着ているので、家ではリラックスできるウェアを選ぶようにしているんです」

 3〜4日休みがとれると、パートナーの家族が持つアルザス地方の別荘で自然を堪能。週末はパリで過ごすことが多い。「8歳で初めて訪れたときからパリが好き。散歩をし、カフェで過ごすだけで満足です」

 趣味は映画鑑賞と読書。「以前は週に2回は映画を観ていました。日常から離れて別世界に浸れるのがいいですね。最近は映画館に行く時間がないのが悩み。バカンス中は何もせず、読書に徹します。毎日1〜2冊は読むので、休暇の日数分の本を持っていくようにしています」

 好きな作家は20世紀半ばに活躍したマルセル・パニョル。「劇や映画の作家でもあります。言葉の選び方や表現が詩的で、彼の作品の影響で文学が好きになりました。自分でも、そんな素晴らしい作品を書き上げてみたいですね」


キッチンの棚に並ぶポットと水差しのコレクション。主にブロカントで購入した。


好きな飲み物は紅茶。読書をしながら楽しむ。


自身が手がける〈ヨレーヌ・パリ〉のプロダクト。左のボックスは本からイメージ。「日常のさまざまなものから着想し、色やデザインを考案。ふわりとしたテクスチャーの口紅、ラ・ムッス・ルージュは、チョコレートムースからインスピレーションを得ました」 


ダイニング。家具や壁の絵もブロカントで見つけた。水差しは花瓶としても活躍。


出身地でもあるアルザス地方の伝統的な皿。「母は料理上手。シュークルートや、野菜や肉を煮込むベッコフなど、伝統料理が得意です」

Camille Yolaine カミーユ・ヨレーヌ

仏アルザス地方・コルマール出身。編集者、クリエイター、コスメブランド〈ヨレーヌ・パリ〉代表。Instagram()のフォロワー約52万人のインフルエンサー。

yolaine-paris.com


寝室のコーナー。〈アスティエ・ド・ヴィラット〉の花瓶に紫陽花を生けて。


ベッドルームのリネンはローズ系でコーディネート。家具はアルザスの実家から運んだもの。鏡横の絵は義妹からの贈り物。


クローゼットはブロカントで。花のペイントや色合いが気に入って購入。


ミュージシャンであるパートナーのピアノ。こちらの壁にもブロカントで見つけた絵や写真をデコレーション。鳩時計は両親からのプレゼント。


ゼラニウムを育てるプランター。アパルトマンはカフェのある小さな広場に近く、田舎町のような雰囲気が楽しめる。「日中はパリの中心部で働いているから、夜は静かに過ごせるのが嬉しい」

photo : Yusuke Kinaka text : Miyuki Kido

&Premium MOOK &Paris / パリに暮らす人の、部屋づくり。

長い歴史のなかで文化が育まれてきたパリ。美しく豊かな景観を守ってきたこの街には、築 100年を超えるような古くて小さなアパルトマンがたくさんあります。そして、そこに住む人々は、リノベーションをして壁を好きな色に塗ったり、ブロカントで集めた家具や雑貨、古道具を所狭しと並べてみたりと、工夫しながら部屋づくりを楽しんでいます。現地に22年間暮らすライターの木戸美由紀さんが、生活様式に大きな変化があった2021年から約3年にわたって訪ねた、パリやその周辺で生活を営む34組の住まいを一冊にまとめて、お届けします。

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