先月26日、電車の車内で座っている女性に対し、目の前に立って鞄をぶつけたり、中指をクイクイと動かす動作を見せつけるなどした男性の動画がSNSに投稿され、物議をかもした。
動画は座っていた女性が対抗のために撮影したもので、Xに「みなさん教えてください。触られてない以上は我慢するしかないですか?車内で隣こいって合図をされて無視してたら接近。そして延々と鞄をぶつけられたり映像のようなことをされました。 ずっと何も出来なかったけどやっとの思いでカメラを向けました。そしたら逃げた。注意喚起も込めて私は載せます。」と文章とともに投稿された。
撮影された男性の行動が「気持ち悪い」「これは怖い」と話題になり、投稿はまたたく間に拡散。5月1日時点で1.6万リポストされ、4075万回表示されている。
動画や投稿文からわかる限りでは、男性は身体的な接触をしたり、卑わいな言葉を直接的に投げかけたりしたわけではない。しかし、女性にしつこく“粘着”し、恐怖を与えていることは明らかだろう。
こうした男性の行為は、なんらかの罪に問われることがあるのだろうか。
男性の行為は“犯罪”に当たらない?
刑事事件に多く対応する中井和也弁護士は、今回の男性の行為について、「身体への接触がなくいわゆる“痴漢行為”には該当し得ない場合がある」と話す一方、各都道府県の迷惑防止条例で規制されている「卑わい行為禁止規定」に抵触する可能性があるという。
「今回撮影された男性の言動は、性的な行為を“示唆”するとして『卑わいな言動』に該当する可能性もゼロではないと私は考えます。
各都道府県の条例の内容にもよりますが、たとえば鹿児島県の『公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例』を見ると、『公共の場所にいる者又は公共の乗物に乗っている者に対し著しく羞恥させる又は不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること』が規制されています。
鹿児島県警察のホームページによれば、『耳元で卑わいな言葉をささやく行為』や『卑わいな文書や写真を相手に見せつける行為』などが卑わいな言動の一例として挙げられています。ただし、行為があった場所の条例の内容にもよりますので、“必ずしも”撮影された男性の行動を罪に問うことができる訳ではありません」
今回のようなケースで、確実に罪に問うためには「法や条例によって、規制の範囲を広げることが必要です」とする一方、中井弁護士は「ただ…」と続ける。
「本件のような内容は、非常に際どく、男性が性的な行為を示唆して中指を動かした訳ではないと言い逃れをした場合、規制の範囲を広げたとしても罪に問うことが難しくなるという問題もあるのが実情です」
撮影は有効な対抗手段? デメリットも…
昨今、迷惑行為を受けた際などに、行為者にカメラを向ける・撮影することが、対抗策のひとつとして定番化しつつあるようだ。今回のケースでも、被害女性がカメラを回したことでそれに気づいた男性が “逃げた”という。
中井弁護士は対抗策としての撮影について、「相手方に対する心理的な抑止にはなると思いますので、撮影するだけでSNSでの拡散をしなければ、対抗手段として有効と評価できる部分もあります。
ただし、許可なく撮影することで肖像権侵害を主張されたり、動画が拡散することで、場合によっては名誉棄損に該当するリスクもあり、弁護士としては安易に撮影することが良いと言い切るのは難しいです」と語った。
いまやSNSによる動画拡散には大きな影響力があり、投稿する側にもリスクが生じることは忘れてはならない。
警視庁は弁護士JPの取材に対し、「事件化できるかは個別の判断になりますが、たとえ“接触”がなかったとしても、迷惑行為の被害については我慢せずご相談ください」と回答した。ネット上のバズりに比べると、警察の捜査は“即効性”がないように感じるかもしれないが、自分の身をさらなる被害から守るためにも安全牌を取ってほしい。