京都の店々に密やかに備わる坪庭は、この街に暮らす人々の美意識を象徴するような場所。京都に出かけたら見に行きたい、小さくも美しい庭を紹介します。

セオリーにとらわれない料理と庭。
―INUI―

 

 密やかなマンションの奥の扉を開けると、そこに現れるのは〝妄想異国料理〞を掲げる料理店だ。実は海外にまだ行ったことがないという店主の戌亥謙太さん。その妄想から生み出される料理は、モロッコやタイ、ベトナムなどの異国を感じさせつつ自由さもある。庭もまた同様。アルミサッシの窓越しの外には、黒い石組みの庭が整えられている。植えられているのは南天やクロガネモチ、イヌビワ、馬酔木(あせび)など。和様でありながら、背面のコンクリートにラインを入れた壁も相まって現代的な雰囲気を醸し出している。
「実は庭は前の借り主が整えたもの。そのまま譲り受けた僕はラッキーでした。仕込みをしながら眺められる景色が、この物件を借りる決め手に」と戌亥さん。まだ早い時間に足を運べば木々がよく見える。常緑樹の緑が心地よいのはいうまでもなく。落葉するナツハゼは四季の移り変わりを伝えてくれる。芽吹いたばかりの新緑や夏に咲く白い花、秋の色づき。そして落葉した冬には裸木で樹形の美しさを知る。和のようであり洋のようでもある、店同様に自由さを感じさせる庭なのだ。

   

2022年11月オープン。スパイスやハーブで味を重ねた料理と酒との相性を楽しむ。

『イヌイ』
京都市左京区新先斗町1-33-102
075-600-2017
18時〜23時
水休ほか不定休

photo : Yoshiko Watanabe illustration : Junichi Koka edit & text : Mako Yamato