サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No40となる今回は、本誌No126に登場した『キオスク』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。


今回も、まずは川村さんによる精巧なスケッチから。クラフト紙の包みから出されたそれが、今回の主役です。

包みをあけても、まだなお温かい。

『キオスク』で数年ぶりにホットサンドを買って、家に持ち帰り、包みを開けたらまだ温かかった。切り口を見ると、私がメインです、と言わんばかりのボリュームでカボチャが挟まれていて、上下のパンを合わせたのと同じくらいの厚みがある。ほんの少しだけ見える赤キャベツの千切りと、前述のカボチャ、それに、どこにいるのかはわからないけれど入っているはずのチーズ以外の味を考えずにかじりついたら、実際に味の決め手を担っていたのは、カボチャの下に敷き詰められている存在だった。カボチャをめくると、パセリの千切りと、セロリの茎を小口切りにしたものが散らばっていた。これが、結構ピリッとしている。メニューに、マスタードと書かれていたのを思い出した。ハーブのペーストでも、何かソースでもなくて、粗く刻んだ野菜で作った洋風のふりかけのような、その味付けの素に、とても惹かれた。 サンドイッチは週替わりという。それで、次の週にまた買いに行った。

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きのこ、ケール、カボチャクリームのホットサンド。


本誌で紹介した、きのことケールとカボチャクリームのホットサンド。

前の週はパン・オ・ルヴァンだったのが、その週はパン・ド・ミになっていた。具は、きのこ2種と、カボチャのクリーム、それにケールとトム・ド・サヴォワ(チーズ)とあった。テイクアウトして帰ると、サンドイッチの真ん中に切れ目は入っておらず食パンのサイズそのままで、それが、子どもの頃、お弁当に持たされたホットサンドを思い出させた。違うのは、母はアルミホイルで包んで、『キオスク』で買ったものはクラフト紙で包まれていたことだ。もしかすると、クラフト紙のほうが蒸気を逃すのかもしれない。家に着いて包みを開け、切ろうとしたときには買ってから30分ほど経っていたのに、表面はまださっくさくだった。ナイフで軽く切り込みを入れてから、手で2つに切り離すと、チーズときのこがとろけ出た。


家に持ち帰ったときには、こんな感じでとろけ出た。

ケールもふんだんだ。でも、この日の味の要は、前回とは姿も位置も変え、薄く塗られていたカボチャクリームだった。厚さ5ミリのスティック状に切られたニンジンのピクルスも、味だけでなく歯応えでもアクセントとして存在感を放っていた。サンドイッチ自体、野菜ベースで、パンチの効いた引きの強い味ではない。それが逆に、スルスルと食べられるおいしさで、もしお弁当でこのホットサンドを持たされたら、すごくハッピーだと思ったし、たとえば旅行でパリに来て、たまたまホテルの近くにあるこの店でこのホットサンドを食べたなら、「今日も、あのサンドイッチにしよう」と、その後、何回も買いに行くことにあるだろうな、と想像した。そして次の滞在も、『キオスク』のホットサンドを頭に浮かべながら、同じホテルを予約するんじゃないかと思う。あそこに行けばあれがあるから大丈夫、と安心できるおいしさだった。


ランチタイムのピークを外して行けば、ゆったり過ごせる2階席。

後日聞いたら、カボチャクリームは、カボチャを丸ごと焼いてから潰して、白味噌と醤油で味付けしていたそうだ。そして、具材に合わせてセレクトするパンも、パンによって買う店を選んでいると知った。それを聞いて、「あら、私みたいだ」と親近感を覚えた。