那須夫婦遺体事件「若山耀人容疑者」だけじゃない…“闇バイト”に堕ちた「元芸能人」の共通点

東京・上野の繁華街で焼肉店などを14店舗展開する「サンエイ商事」社長の宝島龍太郎さんと妻の幸子さんが殺害され、栃木県那須町の河川敷に火をつけて放置されていた事件は、世間に少なからず動揺を与えた。

“闇バイト的なニオイ”がする底知れぬ事件

集英社オンライン4月21日・5月9日配信記事から抜粋すると、平山綾拳容疑者は遺体発見の翌日(4月17日)、都内の交番に「栃木の事件に自分が関与しているかもしれない」と出頭している。事情を聴いたところ「名前は言えないが、アニキに頼まれて車や凶器を準備した」「アニキの求めで遺体を処理する実行犯として飲み仲間2人を紹介し、粘着テープなど凶器を購入したうえで車を飲み仲間に渡した」と供述したという。

その後、「アニキ」とは上野で2月上旬から客引きをしていた佐々木光容疑者と判明。捜査本部は4月28日に同容疑者を沖縄県で逮捕し、複数のスマートフォンを押収している。

また、平山容疑者が貸した車で遺体を那須へ運んだとみられる元俳優・若山耀人容疑者と姜光紀容疑者、宝島夫妻を4月15日夜に誘い出したとみられる不動産会社代表・前田亮容疑者も逮捕された。指示役の佐々木容疑者は「報酬」として約1500万円を平山容疑者に渡し、平山容疑者は実行役の若山容疑者、姜容疑者に250万円ずつ分配して、残った金を自分のものにした疑いがあるとされる。

この「アニキの求めで遺体を処理する実行犯として飲み仲間2人を紹介し、粘着テープなど凶器を購入したうえで車を飲み仲間に渡した」というくだりを読むと、闇バイト的なニオイがするのは、筆者だけであろうか。

闇バイトは、SNSでつながるものだけではない。特殊詐欺や強盗でも「知人や友人の紹介」で加入するケースも多い。警察庁の調査によると、2023年におけるSNS経由の「闇バイト」加入者は46.9%、「知人の紹介」が27.5%となっている(警察庁「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」)。


営業を再開した宝島さんの店(弁護士JP編集部)

「元芸能人」が加担する闇バイトは“特殊”なのか

この事件では、元俳優の若山耀人容疑者が逮捕されたことに驚かれた方も多いと思う。

若山容疑者同様に、俳優が闇バイトなどの事件に手を染めた例は散見される。たとえば、2008年にドラマ「ホームレス中学生」で主演を務めた黒木辰哉氏。同氏は、高齢者に対して警察官や金融庁職員などと名乗り、現金やキャッシュカードをだまし取ったとして窃盗と詐欺の罪に問われ、前橋地裁高崎支部が2020年2月12日に懲役4年6か月の実刑判決を言い渡している(朝日新聞 2020年2月14日)。

ほかにも、2020年9月29日、ジャニーズJr.としてカミュ―・ケイドの名前で活動し、2007年には『金八先生』に出演していた大貞太子氏が、ガス点検を装った強盗で神奈川県警に逮捕されている(デイリー新潮 2020年10月2日)。

2023年10月26日には、スーパー戦隊シリーズ『海賊戦隊ゴーカイジャー』のゴーカイシルバー(伊狩鎧)役だった俳優の池田純矢氏が、詐欺の疑いで警視庁から逮捕された。11月15日には窃盗容疑で再逮捕されている(読売新聞 2023年11月15日)。

あるいは、2023年9月21日、お笑いコンビ「タカダ・コーポレーション」で「おやきくん」として活動していた正村綱良氏が、詐欺未遂の容疑で宮城県警に逮捕されている(東スポWEB 2023年9月22日)。

芸能人が、これほどまでに闇バイトとみられる事件で逮捕されていることに筆者は驚きを禁じ得ない。芸能界で落ち目になって「たまたま」闇バイトにはしった特殊なケースとは、一概に言えない人数である。

闇バイトに堕ちた元芸能人の“共通点”

黒木辰哉氏は俳優の仕事がなく金銭的に困っていたようだ。しかし、逮捕された他の元芸能人について日常に関する知人証言をみると、金遣いが荒く、享楽主義的な傾向が認められる。

①若山耀人氏「動画内ではクラブと思しき場所で、若山容疑者に酷似した若い男性のハイテンション姿が収められていた。一部報道で若山容疑者は、東京・渋谷のクラブに頻繁に出入りしていたとも伝えられている」(女性自身 2024年5月6日)

②大貞太子氏「アイツは給料日になると後輩を引き連れてクラブで豪遊するんですよ。そのうち借金も嵩み、前借りを繰り返して働きづらくなった」(デイリー新潮 2020年10月2日)

③池田純矢氏「昔から六本木、港区系男子として会員制バーとかにもちょくちょく顔を出していた。有名なアテンダーの店に顔を出して、女の子をはべらせていた」(集英社オンライン 2023年10月30日)

④正村綱良氏「芸人時代からとにかくカネ遣いが荒くて評判は良くなかった」(東スポWEB 2023年9月22日)

昨今の青少年は「楽にカネを稼ぎたい」傾向がある

筆者は、闇バイトに加入して逮捕された複数の実行犯と会い、彼らの過半数に共通する傾向を見いだした。それは「こつこつ働きたくないが、他人が発信するキラキラした世界に憧れる」という享楽主義的傾向である。

だから、複数の対象者から「ビッグになる」「ワンチャンゲット」などという言葉を聞いた。前者は、罪を犯してでも金を稼いで、他人から一目置かれること。後者は、ワンチャンスをゲットして、楽して金を稼ぐことである。

このような傾向は、『令和4年版犯罪白書』掲載の「法務総合研究所」の調査結果に表れている。

令和3年に同研究所が行った「犯罪者・非行少年の生活意識と価値観に関する調査」によると、「汗水流して働くより、楽に金を稼げる仕事がしたい」の項目について「そう思う」に該当する者の構成比は、対象者全体では43.3%だったが、若年層で構成比が高い傾向が見られ、20代50.3%がもっとも高く、中間少年(16歳以上18歳未満)49.6%、30代49.5%と続いている。

ユーチューバーやカリスマ投資家の活躍を目にして、若者が「楽して金を稼ぎたい」という気持ちを持つことは、ネットが普及した現代においては不可避かもしれないが、それは甘い。

闇バイトで逮捕された者の行きつく先は「社会的廃人」

一度でも「闇バイト」に応募し逮捕されたとしたら、上述の元芸能人たちと同様に、ネットに名前が出ることでデジタルタトゥーとして犯罪事実が残ってしまう。そうなると、銀行口座の開設や賃貸借契約が難しくなる。あるいは、刑期を終えても就職することが困難になる可能性がある。さらにいうと、結婚すらできなくなるかもしれない。

闇バイトで逮捕されたら、社会的廃人になりかねない世の中である。芸能人だけでなく、青少年には「犯罪首謀者の甘言に乗せられないように」と、強く警告したい。