パイナップルの台湾語は「鳳梨(おんらい)」で繁盛を意味する「旺來(おんらい)」の発音と似ている。そのため、これを餡に用いた「パイナップルケーキ(鳳梨酥(フォンリースー))」は古くから贈答品や土産物として親しまれてきた。メーカーによって風味や食感が異なるので、食べ比べが楽しい郷土菓子でもある。本連載第29回でも紹介したが、その進化はとどまるところを知らない。シナモンロールで有名なベーカリー『Miss V Bakery』では「鳳梨夾心酥(フォンリーツアシンスー)」というバターサンドタイプのものを扱い、サクサク食感のクッキーに弾力のあるパイナップル餡がサンドされている。もう一つは、萬華にある麺店『一肥仔麵店』が手がける青草(ハーブ)入りのもの。爽やかな風味がウリとなっている。オリジナリティ溢れる2つを紹介してみたい。

パイナップル形の可愛らしいバターサンド。

 バージニアとベロニカという幼馴染みの二人が10年前に立ち上げたブランド。常に商品開発を続ける彼女たちが2021年に開発したのが「鳳梨夾心酥」。これは発酵バターを用いたクッキーに在来種のパイナップル「土鳳梨」で作ったジャムを挟んだもの。酸味がやや強い品種だが、バターの風味でまろやかに仕上げている。餡にはパイナップル繊維も含まれるが、柔らかく歯ごたえがあるのも特色だ。甘酸っぱいクランベリーを加えたものと、塩味と甘味のバランスが良いアヒルの塩漬け卵入り(101店限定)、さらに香り豊かな阿里山産の紅玉紅茶味の合計3種類ある。従来のパイナップルケーキはポロポロとこぼれやすい生地だが、こちらのは軽やかな食感で食べやすいのも魅力。

Miss V Bakery
ミス・ヴィー・ベーカリー

101店/台北市信義區信義路五段7號B1 02−8101−8520 11:00〜21:30(金土〜22:00) 無休 クランベリー入り1個42元、紅玉紅茶味1個48元。

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爽快感を味わえる新感覚パイナップルケーキ。

 下町・萬華で4代続く麺店。店主である孫亦德さんは4年前に家業を継いだが、元々は洋菓子を学んでいた経験があり、店内ではふわふわのスポンジケーキやパイナップルケーキを販売している。「この土地らしい土産物を作りたい」と開発したパイナップルケーキは萬華名物の青草茶(ハーブティー)を用いたもの。近所の青草茶の老舗『老濟安』に複数のハーブを特別に配合してもらい、枝まで細かくしてもらっている。パイナップルケーキに青草茶を用いるのは難易度が高く、何度もレシピを変えて研究を重ねたという。青草茶の風味をより感じられるように、葉のままではなく、一度煮込んだものを用いるのがコツ。一口食べると口全体にミントのような清々しいハーブの香りが広がる。

一肥仔麵店
イーフェイツァイミエンディエン

台北市萬華區西園路一段69號 02−2388−0579 10:00~20:00 無休 1個55元、6個入り320元。大量に購入する場合は事前に予約を。

文/片倉真理 
※この記事は、No. 126 2024年6月号「&Taipei」に掲載されたものです。

台北在住ライター・コーディネーター 片倉真理

1999年から台北に暮らす。台湾に関する書籍の執筆、製作のほか、雑誌のコーディネートなども手がける。台湾各地を隈なく歩き、料理やスイーツから文化、風俗、歴史まで幅広く取材。著書に『台湾探見』、共著に『台湾旅人地図帳』(共にウェッジ)、『食べる指差し会話帳』(情報センター出版局)など。