麻布十番あたりから東麻布に広がるエリアは、下町ののどかさと都会の洗練された空気が混じり合う都会のエアポケットのような場所。そんな東麻布の雰囲気にしっくりと馴染むレストラン【OLINA】がオープン。フラ
フランス人シェフと元デザイナーがタッグを組んだレストラン
親しい人と普段よりちょっといい食事をして、非日常を味わいたい。
そんな気分のときに、おすすめしたいフレンチレストランが東麻布にオープンしました。
お目当ての店は、大通りから一本入ったビルの上階。温かな光がテラスの窓から溢れているところが、今回ご紹介する【OLINA】です。細い道路を入って上を見上げれば、人々を導く灯台のようなお店をすぐ見つけることができるでしょう。
落ち着いた雰囲気のダイニング。オープンキッチンの気配を感じることができる
こちらを営むのは、フランス人シェフのオリヴィエ・ガルシアさんとサービスを仕切るパートナーの高遠菜都子さん。
オリヴィエさんはスペイン人の父とフランス人の母を持ち、オーストラリア、フランス、スウェーデンなど、ミシュラン星付きレストランを含む、様々なスタイルのレストランで経験を重ねてきました。
一方、菜都子さんはファッションデザインを学ぶため2009年に渡仏後、トップメゾンでのインターンなどをしながらフランスで暮らしていました。スウェーデンでは Acne Studios(アクネ ストゥディオズ)のデザイナーとして活躍していた人物です。
シェフのオリヴィエ・ガルシアさん(右)と、サービスを担当する妻の高遠菜都子さん(左)
レストランの扉を開き、席に案内されると、まず目に留まるのはスタッフのユニフォーム。一瞬“つなぎ”のように見えるユニークなデザインは、あまりレストランで見かけないタイプのもの。キッチンで料理に没頭するシェフ、ワインをセレクトしているソムリエ、料理を運ぶサービスマンなど働く人たちの姿を美しく魅せています。
気になって尋ねたところ、実はこちら菜都子さんがデザインしたものだそう。Acne Studiosでもワークウエアをデザインしていた彼女にとって、“シェフもサービス担当も同じチーム。その境界線がないものをユニフォームにしたかった”という思いを込めたといいます。
こうした、“ちょっと違う光るセンス”がこの随所に散らばっているのが【OLINA】の魅力。まったく違う道を歩んできた二人の経歴から生まれる感性やアイデアが、さまざまなところで感じられるのです。
この日とどいた、タケイファーム・自然農園TOMからの野菜たち。みずみずしく、エネルギーに満ちています
数多くの国でのバックボーンを持つオリヴィエは、実に好奇心が旺盛で柔らかい感性の持ち主。それは各国、文化の違うさまざまな人とコミュニケーションをとって磨かれてきたからこそでしょう。
食材や器探しのために農家や工芸家を訪ね、ひとりひとりの話に耳を傾け、届いた食材や器を見るたびに、無限にインスピレーションが湧いてくるといいます。
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日本の四季を感じる、自由なフランス料理
心地よい空気が流れているオープンキッチン
加えてオリヴィエさんが日本で刺激を受けたのは、はっきりとした日本の四季。それぞれの食材が持つ、短くおいしい“ピーク”の旬の味わいを、自由自在に組み合わせ、料理に仕立てていきます。
取材をしたのは4月も終わりのころ。この時につくってくれた「グリンピース」の料理には、いろんな生命が輝く海山の春を感じることができます。メインの食材はフレッシュで丸々としたグリンピースと、北海道で獲れる北海アサリでした。
大粒のアサリはたっぷりとした食感を活かし、白ワインとエシャロットでサッとゆでたあとに備長炭で炙って香ばしく。グリンピースは皮を剥いて、シンプルに甘みを引き出しています。
奥田誠二さんの信楽焼きに守られた『プチポワ・北海アサリ・発酵ビーツのピュレ』。土っぽい質感の和食器が、畑の土を連想させ、盛り付けられた料理のエネルギーを際立たせています
ソースは、アサリをゆでたジュースに発酵ビーツのピュレを合わせて、旨みの奥行きを出したもの。そこにグリンピースと、アサリを盛り付け、豆苗をあしらい、グリンピースの鞘から作った泡をトッピング。
豆苗の青い香りと、アサリの海の香り、そして炭火のスモーキーな香りが混じり合って、プチッとグリンピースを噛めば、春の甘みが口に広がります。
わざわざアサリを炭火で炙ったのは、オリヴィエさんの春の思い出から。春になって温かくなると、親しい人と一緒に外でバーベキューをした記憶を、料理に写したかったのだそう。
彼の料理は、真っ白な譜面に、自分の中から生まれる音符を紡いでいく曲のよう。オリヴィエさんは季節の食材を組み合わせながら、その時に生まれる感覚で新しい料理をつくっていくのです。
『サクラマス・桜・白アスパラガス』
コースの中盤に登場する魚料理は、季節の移ろいをそのまま現したような一皿でした。桜のチップで燻製をかけ、香りを移したオイルでコンフィにしたサクラマスがメイン食材。
付け合わせの白アスパラガスは、さくらの葉の塩漬けを巻いて蒸し、添えています。ソースはブール・ブランですが、刻んだ桜の葉の塩漬けを入れてひと工夫。飾りのさくらんぼのピクルスとエディブルフラワーの下にはジュレが敷いてあります。
これだけ桜の要素が一皿に盛り込まれているのに、料理から感じる桜の香りはほんのりと優しい。それはまるで散った花びらをそっと舞上げる春風のよう。そんな香りをまとい、しっとりと火が入ったサクラマスを、ソースの塩味と酸味が支え、ワインが合うフランス料理らしい骨格を作っています。
この一皿から、オリヴィエさんが日本で初めて見た、はかない桜への思いを感じました。