AIなどを用いたデータベース開発などを行うRevCommがまとめた調査「24年卒・就活生の営業職に対するイメージ調査」によると、営業職に対してイメージすることとして「気合」や「根性」が25.6%、どちらかというと「気合」や「根性」が38.6%との回答だった。これらの回答者に、「どうしてそのようなイメージか」を聞いたところ、71.8%が「ノルマがきつそうだから」、46.6%が「常に自分の成績が気になりそうだから」と回答した。
このように、営業職に対しての好感度があまり高くないという調査結果がある。筆者もそう思っているうちの1人だが、そんなイメージを地で行くような、営業職に関連するある裁判を紹介したい。
「ノルマのために架空発注していた」、被告人が明かす営業の実態
紹介する裁判の被告人は、北海道某市在住40~50代くらいの男性だ。男性は某大手家電量販店の営業職として働いていたが、仕事をする中で取引先とやり取りしていた商品を横領した業務上横領の罪に問われた。
この日は、被告人の母親が証人として出廷した。
母親:「息子が横領していたことは、息子が逮捕されてから知った。息子とはあまり会話がなく、金については何も聞いていなかった。今後は息子の身元を引き受けて更生させたい」
検察:「会話がなかったとしても、横領についてどうして息子に聞かなかった?」
母親:「聞いても私にはどうせ何も判断できない。そもそも、コミュニケーションがないのでどうしようもならない」
母親は息子を諦めていたようにも感じた。続いて被告人質問。弁護側からの質問に対し、被告人は架空発注について話し始める。
被告人:「商品を架空発注したのは事実だ。架空発注をしたきっかけは、自分が配属したときにいた上司から圧力をかけられていたからだ。日頃から架空発注のやりかたとして『空売り』(別名、無在庫転売)を教えてもらった」
無在庫転売とは、成約した商品を架空で売ることを意味する。言い換えれば、手元に商品がない状態のまま商品を出品し、注文があってから発注するのだ。加えて被告人は、伝票の数値などを変更したり、数を変えて修正したりする「赤黒処理」で架空発注の発覚を免れていたと話した。
「これらの行為は上司から圧力があったからやった。上司から毎日罵声を浴び、電卓を投げられることもあった。『不正してでも、談合してでも売り上げをつくれ』といわれた」
「会社の風潮として、売り上げをつくれないと転勤させられることがあった。転勤は島流しのようなもので、『できない』というレッテルを貼られることになる。売り上げを上げることが自分の信頼につながると思っていた」(同被告人)
パワハラ上司が辞めても続けた架空発注、被告人「できる限り返済を」
被告人によると、この会社で不正を行うことは常態化していたという。その後、不正をするよう指示をしていた上司は辞め、新しい上司が入ってきた。新しい上司は、前任の上司のような指示をしなかった。ところが、被告人は今まで架空発注していた分の差を埋めるため、継続して空売りをしていたという。
「集計して足りないものはすべて自分が払い、穴埋めをした。親族らから借りたのは約3000万円。会社にも多額の損害があったかもしれない」
検察官の質問。
検察官:「会社を告発しようと思わなかったのか」
被告人:「自分の不正が判明してしまうのではと思い、告発しなかった。会社を辞めようとも思っていた」
「会社に対しては大変申し訳ないと思うし、取引先にも迷惑をかけた。謝りたいし反省もしたい」
検察官:「相談はできなかったのか」
被告人:「不正する一歩手前で相談できればよかった。今は自営業で買い取りの仕事をしている。忙しくしており利益も出ている。自分は大変なことをしたが、できる限りのことをしたい」
最後に裁判長が被告人に聞いた。
裁判長:「ノルマはあったのか」
被告人:「年間で1500~600万円ほど。そのうち700~800万円は架空発注で埋めた」
裁判長:「今後はどうするのか」
被告人:「できる限り金を作って返済したい」
被告人に対し、検察側は「犯行は悪質。2年間で架空売り上げを計上し、被害額も多額だ。一部の金を私的に使用しており、取引先の関係者が厳罰を求めるのも当然で身勝手かつ自己中心的犯行だ」などとして懲役2年6か月を求刑した。
一方で弁護側は、「上司の圧力があり、差額を自腹で払っていたほどだ。過度に悪質性を認めるものではなく、被告人も深く反省している」として寛大な処罰を求めた。
最後に被告人は「今後は、母の監督のもと更生して、犯罪を二度と起こさないことを誓います。民事裁判でも誠意をもって対応したい」と話した。
判決は5月末に言い渡されるが、裁判所がどのような判断をするのかに注目が集まる。