ドイツ生まれの伝統菓子「クラップフェン」。

近年、日本でも注目を集めているドーナツのような揚げ菓子で、ベーカリーなどでも販売されるようになりました。

ころんとかわいい生地の中に、あんずやプルーンなどのフルーツジャムが詰まっていて、表面には粉糖がたっぷり!

ドイツでは、カーニバルの時期のお菓子として親しまれています。

今回は、ドイツと日本にルーツを持つ、料理研究家の門倉多仁亜さんにクラップフェンの魅力、そして幼い頃をドイツで過ごした門倉さんの「思い出の味」もお聞きしました。

レシピも教えてもらったので、ぜひご自宅でも作ってみてくださいね。

門倉 多仁亜(かどくら たにあ)

料理研究家。日本人の父とドイツ人の母の間に生まれる。子どもの頃、ドイツに住む祖父母宅に預けられていた時期があり、18歳のときには、「ドイツ語を忘れたくない」と、自発的にドイツの高校に1年間通った。帰国後は国際基督教大学に入学し、卒業後は証券会社に勤務。結婚後、夫の海外勤務に帯同してイギリス・ロンドンへ。現地でコルドンブルーに入学し、フランスの菓子と料理について学ぶ。帰国後に東京で料理教室を主宰。現在は、鹿児島県鹿屋市に在住。

HP:https://www.tania.jp/

Instagram:https://www.instagram.com/taniakadokura/

 

「断食前のご馳走」として親しまれたお菓子

―ドイツでは、どのようなときにクラップフェンを食べるのでしょうか?

門倉さん:クラップフェンは、毎年2〜3月に催される「カーニバル」で食べる揚げ菓子として親しまれてきました。

キリスト教では、断食を行う期間が定められており、その前に「お祭り騒ぎをして、ご馳走を食べよう!」とカーニバルが催されます。

昔の人にとって、お砂糖をたっぷりかけた揚げ菓子は、まさに“カーニバルのご馳走”。カーニバルの特別なおやつとして、受け継がれてきたのです。

現在では、断食の伝統を取り入れている家庭はほとんどありませんが、カーニバルの風習は色濃く残っており、なかでもカトリック信仰が根強い地域ではパレードが催されています。

私も幼い頃、祖母に浴衣を着せてもらって、カーニバルを見に行った思い出があります。

 

―クラップフェンは、カーニバルの屋台で売られているのですか?

門倉さん:もちろんカーニバル期間中に出店している屋台でも販売されますが、町のパン屋さんでもいつでも購入することができます。

クラップフェンは、ドイツではポピュラーなお菓子なので、1年中取り扱っているお店も結構多いんです。

私が幼い頃は、お正月にもよく食べていました。日本のお餅のように、「特別な日に家族で食べるもの」として、親しまれてきたのでしょうね。

 

「揚げたパン」を意味するクラップフェンは、地域で名称が変わる

―定番のクラップフェンの味や形について教えてください。地域ごとに違いはありますか?

門倉さん:まんまるの形をした揚げドーナツで、中にあんずなどの酸味のあるジャムが入っているのが一般的です。

ただ、ドイツでは「揚げたパン」のことを、総称して「クラップフェン」と呼んでいるため、地域ごとにさまざまな名前で販売されています。

私の祖父母が住んでいたベルリン近辺では、都市の名前にちなんだ「ベルリーナ」や、「お鍋で作るケーキ」という意味の「ファンクーフェン」という名前で売られていました。

 

―地域によって、そんなにも変わるのですね。門倉さんの「思い出の味」はありますか?

門倉さん:ベルリンの「ベルリーナ」が、今でも食べたくなる思い出の味です。

「プフラウメンムース」というプルーンジャムが入っていて、ふわふわでもっちりとした柔らかい食感、表面にはたっぷりと粉糖がかかっていました。

 

―ベーカリーや屋台で売られているクラップフェンですが、自宅で手作りもしますか?

門倉さん:一昔前までは、揚げドーナツは家庭でもよく手作りされていて、ドイツに暮らす叔母は、毎週日曜日の礼拝後、「ファンクーフェン」をたくさん揚げて、家族みんなで食べていたそうです。

今ほど外食できる場所がなかった時代、「日曜日の贅沢」として作っていたのではないでしょうか。

また、祖父母宅のご近所さんがよく作ってくれた、アーモンド型の「ムッツェンマンデルン」という揚げ菓子も思い出に残っています。これもクラップフェンの一種で、パン生地ではなくケーキ生地で作るのが特徴。

ジャムは入れずに、生地にアーモンドプードルやアーモンドエッセンスを加えて、油で揚げて作ります。「ムッツェンマンデルン」は発酵させずに手軽に作れるため、私もよく作っています。

 

ベイキングペーパーの上で発酵させることがポイント!クラップフェンのレシピ

―クラップフェンを作る際、気を付けることはありますか?

門倉さん:生地作りはそこまで難しくないのですが、発酵させた生地を油に落とす工程にコツが必要です。

ポイントは、生地を小分けにしてクッキングシートの上で発酵させること。そうすることで生地を持ち上げやすくなり、油に落とす作業もしやすくなります。

生地をまとめて発酵させると、持ち上げるときに空気が抜けてしまう可能性があるため、小分けに発酵させるのがおすすめです。

今回のレシピは『コーヒータイムのお菓子』(文化出版局 ※現在は絶版)で紹介されているもの。ほかにもおいしいお菓子が掲載されているので、チェックしてみてくださいね。

 

■クラップフェンの作り方

<材料>8個分

【生地】

(A)

・強力粉:100g

・薄力粉:100g

・グラニュー糖:30g

・塩:少々

・インスタントドライイースト:5g

・卵:1個

・牛乳:卵と合わせて約140ml

・無塩バター:20g ※室温に戻しておく

・お好みのジャム:80g

※プルーン、あんず、ベリー系など甘酸っぱいものが◎

・揚げ油:適量

・粉糖:適量

 

<作り方>

1.(A)の粉類をボウルに入れ混ぜる。真ん中にくぼみを作り、溶き卵と人肌に温めた牛乳を、くぼみに入れる。

2.[1]をゴムべらで粉を少しずつ引き込むようにして混ぜていく。ある程度混ざったら切るようにして全体を混ぜる。

3.[2]がまとまってきたら、台に取り出し両手で、なめらかになるまでこねる。途中べたつくようなら打ち粉をする。

4.生地を軽くのばしてバターを真ん中に置き、折り畳むようにして混ぜ込む。

<POINT>

はじめはかなりべたつきますが、カードなどで台に付いた生地もきれいに混ぜ込むとしっとりした生地になります。

5.バターか植物油(共に分量外)を塗ったボウルに[4]を入れ、ボリ袋などに入れ、暖かい場所で発酵させる。30〜40分ほど発酵させると生地が2倍に膨らむ(一次発酵)。

6.[5]を台に取り出し、打ち粉をしたら、空気を抜くように軽くこねる。

7.生地を8等分にして、丸くまとめ、クッキングシートの上に間隔を空けて並べる。ポリ袋などでふんわりを覆い、20分程、一回り大きくふくらむまで暖かいところに置く(二次発酵)。

8.180℃の揚げ油に生地を1個ずつすべらせるように入れ、両面をこんがりと揚げる。きれいな揚げ色が付いたら、網などに上げて、しっかりと油を切り、粗熱を取る。

9.細めの口金を付けた絞り袋にジャムを入れ、菜箸などで穴を開けたドーナツに、ジャムを絞り入れる。全体に粉糖をかけたら完成。

 

「中にジャムを入れる場合、絞り袋が必要となりますが、道具がなかったらジャムを入れずにシナモンシュガーをたっぷりまぶしてもおいしいですよ」と門倉さん。

シンプルで懐かしい味わいの「クラップフェン」、ぜひご自宅でお試しください!