大切なのは、誰・何を推すかではなく、推したいと思う気持ち

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――しゅふJOB総研では、これまでは働き方問題周辺のシリアスなテーマが多かった印象ですが、今回はガラリと趣向を変えて「推し活」をテーマに選んだ理由は何でしょうか。

川上敬太郎さん 人が働こうとする背景は、生活のためだったり、やりがいを求めたりとさまざまです。

これまで調査を通して、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心に約5万人の方々の声に触れてきたのですが、その中で時折、推し活に熱心な方を目にすることがありました。

その際に常々、推し活も就業意欲などに影響を与えている面があるかもしれないと感じていました。

――現在、推し活中も含めて経験者が約4割という数字は、率直に言って多いでしょうか、少ないでしょうか。

川上敬太郎さん 推し活をしている人に限っても3割弱いらっしゃいますし、経験者となると約4割、さらに推し活に興味がある人まで含めると約6割になります。推し活に前向きな方は多いと感じました。

また、アイドルやタレントなどの人物に限らず、何を推すのか人それぞれ多様であることに、推し活の奥深さを感じました。大切なのは、誰・何を推すかではなく、推したいと思う気持ちなのかなと思います。

――経験者が推し活にかけるお金ですが、「月3000円超」という人が8割以上、「月1万円超」という人が6割以上という数字について、どう思いますか。ちなみに、私の知人女性はディーン・フジオカさんのファンクラブに入っていますが、入会金は1000円、年会費は3000円だそうです。

川上敬太郎さん コンサートに行ったり、グッズを買ったりと、推し活にひもづいて何かと出費が伴うことはあるのだと思います。しかし、その出費はイヤイヤ支払うという類のものではなく、嬉しい気持ちや楽しみを伴うものなのだと感じます。

なかには過度にお金を注ぎこんでしまうケースもあると聞きますが、心から楽しめる範囲であれば、とてもポジティブなお金の使い方の1つと言えるように思います。

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推し活支援を上手く取り入れることも、効果的な人事施策

――推し活をすると、「仕事に対して前向きになる」という人が4割以上いますね。しかも、経験者の96%が「幸福感が高まる」と答えています。この働くうえでの「推し活効果」をどう考えていますか。

川上敬太郎さん 推し活による仕事への影響を聞くと、「もっと収入を増やしたくなる」と回答した人が最も多くて半数近かったので、やはり推し活が就業意欲に影響を与えている面が多分にあるのだと感じました。経験者のほとんどが「幸福感が高まる」と答えたことについては、本当にすごい効果だと思います。

職場では社員のモチベーションを上げたり、エンゲージメントを高めたりするために試行錯誤していますが、最近、アニメ制作会社やテレビ番組制作会社、保育園などで、「推し活のための特別休暇」を設ける会社がいくつか出てきています。

今後は、推し活支援を上手く取り入れることも効果的な人事施策の1つになりそうです。

――なるほど。企業の推し活支援はいいアイデアですね。私はフリーコメントでは、私は「推しは推せる時に推せ」や「誰かを応援することで、自分も応援されるような人間になりたい」という言葉にググッときましたが、川上さんはどのコメントが響きましたか。

川上敬太郎さん ポジティブなコメントがたくさんあり、どれも読んでいて気持ちが晴れやかになりました。一方で印象的だったのは、「心の余裕とお金の余裕がなければ、出来ません」という言葉です。

推し活には幸福度を高める面がある一方で、日々の生活にゆとりがない状態では、時間もお金も推し活に割くことが難しくなります。

物価高をはじめ、さまざまな出費の増加が生活を圧迫する中で、推し活できる状態を保つことの難易度が高まっているようにも感じています。

――川上さんは、ズバリ、働く人々に推し活を勧めますか?

川上敬太郎さん 自分の周囲を見渡しても、推し活をしている人にはイキイキと人生を楽しんでいる印象があります。決して推し活の対象を無理に見つけるものではないと思いますが、推し活に興味がある方は一歩踏み出してみてはどうかと思います。

一方で、推し活が目的化すると、義務のように拘束されてしまい、素直な気持ちで楽しめなくなったり、冷静さを欠いて過度に入れ上げてハマると、却って不幸な状況を招いたりすることもあります。

推し活との付き合い方には、推しに対する想いに併せてバランス感覚も大切なのではないかと思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)