「昭和の日」の4月29日(2024年)、日本の金融当局が円買いドル売りの為替介入を行ったと報じられた。ちょうどドル円レートが、一時1ドル=160円まで急落したところだったが、その直後に154円台まで大きく戻した。

今回の介入は、1ドル160円を超えたタイミングで行われた。これは当局が160円を防衛ラインとして考えていることを示しているとみられる。つまり「160円は超えさせないぞ」という意志表示だ。

今はそのおかげもあってか、ドル円レートは150円台にとどまっている。今後再び円安が進むこともあろうが、その時には市場関係者は、「160円を超えそうになると、また介入があるのでは」と、160円に近づくのを試すのは控えるのではないか。これが期待される介入の効果だろう。

繰り返すと見透かされる

今回の為替介入は、さらなる円安を食い止めるためのものだ。それにはドルの価値を下げる必要があり、ドル建ての資産を大量に売ることで可能になる。日本政府が、こうした資産を十分に持っていることが介入の前提条件となる。

幸い政府には、米国債を中心とした1兆ドルを優に超える巨額の外貨準備がある。今後まだ何度も介入することが可能だ。しかも、1ドル90円だった時代に仕入れた米国債を160円で売ることになるので、大きくもうけることもできる。

そうはいっても無制限に介入が出来るわけではない。何度も繰り返すと、当局の行動を市場参加者に見透かされてしまう恐れがあるからだ。例えば「1ドル160円になったら介入する」を何度も続けていたら、「当局がドルを160円でドルを売ってくれる」となり、市場参加者にもうける手段を与えてしまう。

介入は当局が相場に影響を与える目的で取引を行うものなので、市場をゆがめる行為だと言える。本来このような力技は避けるにこしたことはなく、基本は市場に任せるのが大原則だ。イエレン米財務長官が「介入はまれであるべきだ」とのコメントを出したように、世界では介入はできるだけ避けるべき行為だと見なされている。今回、我が国の当局が介入したことを明言していないのは、介入したことに対する後ろめたさも背景にあるのではないか。

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理不尽な円安水準ではない

私は、介入の効果は限定的であり、これで円安傾向が止まることはないと考えている。

今回介入をした目的は、ドル円レートを適正なレベルに直す(円の価値を上げる)ことにある。逆に言えば、もしも円の実力が弱まったために円安になったのならば、それは実力相応であり、介入にはそぐわないことになる。

現在のドル円レートは150円台の半ばを行き来している。2020年にはドル円レートは104円から109円くらいだった。ここ4、5年で3割程度円安に動いたということだ。

この低下が、円の実力を反映しているのかどうかが問題となる。もしも円の実質的な価値(購買力)は大して下がっていないのにドル円レートが3割も下がったのならば、円安は行き過ぎと言っても良いだろう。そうであれば政府が介入することに大義があると言えそうだ。

それを確認するためには、「円の実質実効為替レート」を見るのが有効だ。これは世界の中での円の実質的な購買力を示すもの。物価や賃金などを比較した数値で、他の通貨に対して円の価値が上がればこの数値は上がり、円が弱くなれば下がる。

過去の動きを見ると、2020年の円の実質実効為替レートを100とした場合、今の円は実質的に70程度にまで下がっている。つまり円は外貨に比べて約3割、実質的な価値を下げた。「安い通貨」になったということだ。

これは実感とも合う。例えば米国カリフォルニア州ではこの4月から、ファストフードの最低賃金が時給20ドル(約3100円)に引き上げられた。一方、マクドナルドの「ビッグマック」は日本で一個480円なのに対し、米国ではその倍近い5.69ドル(約880円)する。円の価値は米ドルの半分か、それ以下になってしまったように見える。

これは日本がデフレ傾向で、物価や賃金がほとんど上がっていないために起きたことだ。一方で米国を中心とする国々はインフレ傾向が鮮明であり、物価も賃金もじわじわ上がってきた。そのため海外での日本円の購買力はどんどん下がってきたのだ。

結局、現在のドル円の為替レートが150円台から160円というのは理不尽な円安水準ではなく、むしろ実態を反映する程度に下がったということではないか。そうであれば、政府が介入によって、いわば無理やりに上げようとしても難しい。