ジャーナリストの池上彰さんや経済評論家の森永卓郎さん、実業家の堀江貴文さん、起業家の前澤友作さんなど、著名人をかたってSNSで投資を勧誘する詐欺が社会問題になっている。

そんななか、国民生活センターは2024年5月29日、被害相談が急増しているとして、注意喚起の報告書を発表した。

いったん振り込むと、お金の回収は不可能に近い。調査担当者に騙されない自衛策を聞いた。

「違約金は1100万円」「海外株式市場の税金に1300万円」

国民生活センターによると、著名人をかたる金融商品・サービスの相談件数は、2022年度は170件だったが、2023年度には1629件と約9.6倍に増えた。購入金額も234万円から687万円と3倍増の勢いだ【図表1】。



(図表1)相談件数が約9.6倍に急増(国民生活センター作成)

2023年度の年代別の相談件数を見ると、60歳台が最も多く32%、50歳台が26%、70歳台が21%と、50歳台以上が8割以上を占める【図表2】。社会経験が豊富な、いわば「分別盛り」がなぜ騙されるのか。



年代別相談件数と平均購入金額(国民生活センター作成)

こんな事例が代表的だ。

【事例1】有名経済評論家の投資相談に参加、アシスタントを名乗る人に次々に投資を勧められ、総額1500万円を振り込んだが出金できない

母から相続した資産での投資を考えていると、有名経済評論家が主催する投資相談のSNS広告が表示された。100万円が1億円になったとの体験談が掲載されていたのでメッセージアプリへ登録した。

有名経済評論家のアシスタントを名乗る人からメッセージが届き、海外株が短期で値上がりすると投資話を持ちかけられた。有名経済評論家だから信用できると思い、100万円を振り込んだ。さらに、「もっと利益が高い投資がある。経済評論家の先生へメッセージを送ってください」と、次々と連絡があり、結局総額1500万円を振り込んだ。

運用状況で確認すると6000万円の利益があったので資金を引き出したいと申し出ると、出金手数料900万円と、海外の株式市場に税金1300万円を支払わないと出金できないと言われた。(2024年1月・60歳代女性)

【事例2】有名投資家がノウハウを発信すると謳っていたが、投資額を勝手に決められて違約金も請求された

有名な投資家が株式投資のノウハウを情報発信するSNS広告を見て登録すると、メッセージアプリへ招待され、すぐにFX投資を勧められ、実態のよくわからない海外投資会社で口座開設した。その際、運転免許証や携帯電話番号、メールアドレス、年齢等の情報を担当者へ送った。

30万円を個人名義の口座へ入金したが、投資グループの先生から勧められ徐々に増資し、総額440万円を入金した。途中で利益として約35万円を引き出した。原油先物取引も勧められ、投資額は残高に応じて自動的に決まるとの話で、3700万円相当を取引したと伝えられた。

「支払えない」と言うと、「やめるなら違約金は1100万円だ」と告げられた。渡した個人情報が心配だ。(2024年2月・30歳代男性)

【事例3】「絶対に負けない投資家を知っていて、自分も儲かった」という有名投資家の姪に勧められてFX取引を始めたが、連絡が取れなくなった

SNSに海外の女性からメッセージが届き、やり取りを始めた。女性は有名投資家の姪で自身も会社経営者とのことだった。女性から「絶対に負けない投資家を知っている。自分も儲かったので、あなたも儲けてほしい」と言われFX投資のアプリをダウンロードした。

総額200万円程を投資したところで残高が1300万円に。利益が出て喜んでいたら、「不正な行為があった可能性がある」と言われ、口座が凍結され、その解除に270万円が必要と言われた。270万円を振り込んだが、その後、女性と連絡が取れなくなり、アプリも開かなくなった。(2023年3月・50歳代男性)

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リアルに作られた動画と、「儲かった」と乱舞するチャット

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した国民生活センター相談情報部の小谷野武瑠(こやの・たける)さんに話を聞いた。

――国民生活センターがこれまで取り上げてきた「投資詐欺」の被害相談は、若い世代が中心でしたが、なぜ、著名人をかたる投資話の被害者には50代以上の「分別盛り」の人が多いのでしょうか。

小谷野武瑠さん 厚生労働省の国民生活基礎調査を見ても、50歳台~70歳台の世帯主の平均貯蓄額は、ほかの世代より高いです。みな1000万円を超えており、特に60歳台は1540万円と、一番多く貯金があります。

子育てが一段落して、さあ、この貯蓄を使って老後の資金を増やそうとする時に、つい上手い話に乗ってしまうのだと思います。

――投資に使うお金がたくさんあるというわけですね。しかし、なぜ著名人の広告に弱いのでしょうか。

小谷野武瑠さん その心理まではよくわからないところがありますが、相談内容を見ると、著名人が対談したり、講演を行なったり、リアルに作られている動画が多いようです。それがAIで作られているかは確認できませんが。また、サクラかどうかは確認できませんが、「儲かった」「儲かった」とグループ内で自慢し合うチャットに誘われるケースが多いです。